妻:あのころは、離婚して小さかった息子たちと離ればなれになった後で、ものすごく大変だったんです。ちょっとうつっぽくて、睡眠薬がないと眠れないような状態で、今より10キロ痩せていて。でも今ちゃんと一緒に暮らし始めたら、この人、私が寝るまで寝ないから、先に寝るようになっちゃって。睡眠薬がいらなくなったんですよ。

夫:らしいです(笑)。

妻:甲状腺の持病もあって具合が悪くて、朝起き上がれず目しか開かないような状態のときに、「寝ていてください」って言うから、「え、いいの?」って。それまでは私が朝ご飯の支度をしてたんですが、今ちゃんは、私が恥ずかしくなるぐらい料理上手でびっくりして。「これから毎日お願いします」って(笑)。

夫:ハハハハハ。

妻:スッポンとか買ってきてうちで食べたときもびっくりした。スッポンって普通、お店で食べるもんじゃない?って思ったもの。

夫:宏美さんが元気になれるものをなんとか食べさせたくて、市場を見て回ったらスッポン見つけちゃったんです。

――さお竹売りから家具の組み立てまで、夫が経験してきたアルバイトは数え切れない。一方、歌姫として育った世間知らずの妻。その妻にとって夫は、一般常識を知るきっかけを与えてくれた恩人でもある。

妻:この人、何でも知ってるんですよ。本当にいろんな経験をしてるの。私の周りに苦労人はいるけれど、今ちゃんほどいろんな経験をしてきた人はいないと思う。今まで住んだ一番安いアパートはいくらだっけ?

夫:家賃1万5千円、くみ取り共同便所。大学在学中にオーディションを受けて合格したので退学したら、おやじに、「お前の人生だから好きにしろ。でも俺の人生からは出ていってくれ」と言われて家を飛び出したんです。

妻:しかも、東京理科大ですからね。

夫:それからはずっとガテン系日雇いバイトを転々と。

妻:過酷なバイトはほとんどやってるよね。だから、私が何もできなくてびっくりしたと思います。洗濯もののたたみ方も干し方も、今ちゃんに教えてもらいました。

※「初対面の義父を呼び捨て! 岩崎宏美が見せた下町パワー」へつづく

週刊朝日 2017年8月4日号より抜粋