トランプ政権が生まれたこの半年で、米国は大きく影響力を失ったとジャーナリストの田原総一朗氏は指摘する。

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 7月20日で、トランプ氏が大統領に就任して半年になる。その間に、米国はどのように変わったのか。

 トランプ氏は米国第一主義を唱え、米国を世界の偉大な国にすると力説し続けた。しかし、はっきりしているのは、トランプ大統領の下で、米国が世界での影響力を大きく失いつつあることだ。

 トランプ大統領は、オバマ前大統領が実現を図ったTPPからの離脱を宣言した。実は日本はオバマ氏の米国から強く求められ、農協などの強い反対を押し切って交渉参加に合意したのであり、TPPにより米国は有利になるはずだったのである。それをトランプ氏は、事情もよくわからないまま反オバマということで離脱宣言をした。これに最もホッとしたのは中国だろう。米国が加盟したTPPが成立すると、中国が孤立する恐れがあったからである。

 米国はG7とG20という二つの首脳会議で米国以外が強く求めたにもかかわらず、環境保護に関するパリ協定からも離脱した。

 あるいはトランプ大統領は、米国が離脱すればTPPもパリ協定も成立しないと思っていたのかもしれない。だが、米国の離脱後も、国際的な枠組みは揺るがなかった。

 実は私は、トランプ大統領の離脱宣言後、11カ国でTPPを結んでも意味がないと危惧していた。日本政府も悩んだようだが、5月21日にハノイでTPP11の実現を目指す国際会議が開かれた。そしてパリ協定も、米国を除くG7、G20諸国が支える方針で一致している。

 ドイツのハンブルクでのG20首脳会議で、トランプ氏は完全に孤立してしまったのだが、彼はそれを途中で抜け出して、ロシアのプーチン大統領と2時間15分に及び会談した。だが、7月8日付のニューヨーク・タイムズは、「会談はプーチンが支配し、ロシアの心理的勝利だった」と報じている。会談後のプーチン大統領の自信満々のトランプ氏に対するほめ方を見ても、プーチン氏の圧勝だったのだろう。

 
 それでは、なぜトランプ氏はプーチン氏に主導権をとられたのか。米国事情に詳しい学者やジャーナリストたちは、トランプ大統領がロシアに相当の弱みを握られているのではないか、とみている。現にその後、トランプ・ジュニア氏が昨年の6月9日、民主党のクリントン氏に関するスキャンダルの提供を持ちかけられ、ロシア人の女性弁護士と面会していたことが判明した。クリントン氏は当時、民主党指名候補として、トランプ氏と本選で対決することが事実上決まったばかりだった。

 ジュニア氏は「情報に中身はなかった」と釈明したが、面会にはトランプ氏の娘の夫であるクシュナー大統領上級顧問やマナフォート選対本部長(当時)などが参加していて、ロシア側は女性弁護士のほかに情報機関との関係が疑われるロシア系米国人のロビイストや不動産会社幹部も参加していたことが判明。クシュナー氏は上院で証言することになった。

 現在、トランプ氏のロシアゲート疑惑の最大の焦点は、ロシアのサイバー攻撃による大統領選介入にトランプ陣営が関与していたかどうかだが、面会が「共謀」の裏付けになるとの指摘もある。米国は世界への影響力を失っただけではなく、今やトランプ氏自身がどこまでもつのかが深刻な問題になりつつある。だが、日本の安倍政権も、トランプ政権と同様にきわめて危ない状態である。

週刊朝日 2017年8月4日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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