ハイカラビーフカレー、ショートケーキ/洋食が珍しかった明治の頃、同店でカレーライスを食べるのが流行。昔ながらの「ハイカラビーフカレー」は、牛バラ肉や肩ロースを使って4日間かけて仕込んだ欧風カレー。数種のスパイスが隠し味となる。950円。ショートケーキは濃厚なスポンジと甘さ控えめの生クリームの名コンビ。500円。税別(撮影/写真部・岸本絢)
ハイカラビーフカレー、ショートケーキ/洋食が珍しかった明治の頃、同店でカレーライスを食べるのが流行。昔ながらの「ハイカラビーフカレー」は、牛バラ肉や肩ロースを使って4日間かけて仕込んだ欧風カレー。数種のスパイスが隠し味となる。950円。ショートケーキは濃厚なスポンジと甘さ控えめの生クリームの名コンビ。500円。税別(撮影/写真部・岸本絢)
日比谷 松本楼東京都千代田区日比谷公園1-2/営業・11:00~20:30L.O./休日・年末年始(撮影/写真部・岸本絢)
日比谷 松本楼東京都千代田区日比谷公園1-2/営業・11:00~20:30L.O./休日・年末年始(撮影/写真部・岸本絢)

 著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は、俳優・渡辺えりさんが通う、日比谷・松本楼のAKARENGA STEAK HOUSEの「ハイカラビーフカレー」と「ショートケーキ」だ。

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 山形の実家には小さい頃から高村光太郎全集があって、『智恵子抄』の一文まで壁に貼られていました。戦時中、父は軍需工場で働いていて、彼の詩を朗読することで空爆の恐怖心を鎮めたそうです。奇跡的に爆撃に遭うことなく終戦を迎えた父は、光太郎のお陰で今の自分があると彼を敬愛し続けています。

 このカレーライスとショートケーキは、彼と妻の智恵子がデートの時に好んで食べたそう。毎年、光太郎の命日にあたる4月2日の連翹忌(れんぎょうき)に彼を偲ぶ会がこの店で開かれていて、以前は父が出席していたのですが、最近は高齢の父に代わって私が出席するようになりました。その時に、このふたつを皆で食べるんです。

 決して奇をてらったものではないけれど、毎年「もう二度と戦争を起こしてはならない」という父の願いを感じながら、しみじみと味わっています。そんな父も今年で91歳。今も山形で元気に暮らしていますが、その思いを継ぐためにも、これからも食べ続けたいと思っています。

「日比谷 松本楼」東京都千代田区日比谷公園1‐2/営業時間:11:00~20:30 L.O./定休日:年末年始

週刊朝日 2017年7月21日号