チャック・ベリー
チャック・ベリー
チャック・ベリー『チャック~ロックンロールよ、永遠に。』(ユニバーサル UICO―1293)
チャック・ベリー『チャック~ロックンロールよ、永遠に。』(ユニバーサル UICO―1293)

 3月18日に他界したロックンロールの創始者のひとり、チャック・ベリーの遺作となった『チャック~ロックンロールよ、永遠に。』。チャックの歌の力強さ、説得力……ヴォーカリストとしての味わいに魅せられる佳作だ。

 チャック・ベリーは1955年、ロックンロール・ブームに火を付ける1曲となった「メイベリーン」以後、全米のR&Bチャートばかりかポップ・チャートの上位にランクされるヒットを相次いで放ってきた。

 父親の大工仕事を手伝いながら音楽活動を続けていたチャックは、ブルース・マンのマディ・ウォーターズに憧れていた。マディとの出会いをきっかけにチェス・レコードを紹介され、デビューのきっかけを掴んだ。

 チェス・レコードのレナード・チェスが目をつけたのは、ブルース・ナンバーではなく、カントリー・ミュージックのヒルビリー系の伝承曲「アイダ・レッド」を改作した「アイダ・メイ」。そのタイトルや歌詞を改めて生まれたのが、デビュー曲「メイベリーン」だった。

 チャックはR&B/ブルースと同時に、客のウケの良さから白人に愛好されてきたヒルビリー系の作品を積極的に取り上げてきた。それが功を奏し、その融合こそがロックンロール誕生の発端のひとつともなった。ラテンやメキシカン風味も採り入れ、音楽性は実に多彩だ。加えてダック・ウォークはじめ、パフォーマーとしても独自の個性を発揮してきた。

 とりわけその存在、作品を印象付けたのは強靱なギター・ワークだ。中でも「ロール・オーバー・ベートーベン」「ジョニー・B.グッド」などでの火花の飛び散るようなイントロのリード・プレイや、ブギ・ウギ・ピアノをヒントにしたボトム・リフは、ロック・ギタリストの誰もが模倣するほど、多大な影響を及ぼしてきた。

 もうひとつ挙げられるのは歌詞世界だ。先の「メイベリーン」では、主人公の黒人が白人の女性とカー・チェイスを繰り広げる。人種の枠を超えた歌詞は、レナード・チェスの狙い通り白人の若者層にアピールする。以後、若者層の大人たちへの反抗心やその日常を描いた作品を相次いで発表し、若者の共感を得るとともに「ロック詩人」として評価されてきた。

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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