追い風参考ながら9秒台をたたき出した多田(c)朝日新聞社
追い風参考ながら9秒台をたたき出した多田(c)朝日新聞社

 出るぞ、出るぞ。次こそ出るぞ。まるでお化けのように言われてきた陸上男子100メートルの9秒台。日本勢初の快挙を巡る争いに、関西のイケメン大学生が名乗りをあげた。関西学院大3年の多田修平(20)だ。

 6月10日の日本学生個人選手権。多田は準決勝を9秒94で駆け抜けた。追い風が秒速4.5メートルで公認上限の2.0メートルを超えていたため、公認記録にはならなかったが、多田は手ごたえを感じていた。

「走ってる感覚がいつもと違いましたね」

 なにしろ追い風参考でも、国内で日本選手が100分の1秒まで表示される電気計時で9秒台を出したのは初めてだった。

 続く決勝でも、強さを証明した。追い風1.9メートルの好条件の中、自己ベストを一気に0秒14更新する日本歴代7位の10秒08。リオデジャネイロ五輪の男子400メートルリレーで銀メダルに輝いた桐生祥秀(よしひで=21)、山縣亮太(25)、飯塚翔太(25)、ケンブリッジ飛鳥(24)に続き、8月にロンドンで開かれる世界選手権の参加標準記録10秒12をクリアした。

 10秒00の日本記録を持つ日本陸連強化委員長の伊東浩司さん(47)は、多田をこう評する。

「足の運びがきれいで、回転も速い。ゴールのとこから見てると、カンカンカンカンって速いピッチでくる。ああいう走り方は追い風に強い。これでリオのリレーメンバーと横一列のスタートラインに立ったと思ってもらっていいです」

 多田は東大阪市出身。中学で陸上を始めたが、才能が花開き始めたのは大阪桐蔭高校に入ってから。自己ベストを10秒50まで縮め、3年夏の全国高校総体では6位の成績を残した。

 関東の大学からも声がかかったそうだが、多田は関学へ進むと決めていた。

「関西で強くなりたかったんです。関東の大学の選手に対抗していきたかった」

 昨夏に10秒25を出し、今年2月の米国合宿では元世界記録保持者のアサファ・パウエル(ジャマイカ)と練習。得意としていたスタートをダメ出しされ、戸惑いながらもパウエル直伝の飛び出しを練習し続け、春から自己記録更新を続けた。

 6月23日開幕の日本選手権(大阪・ヤンマースタジアム長居)では、世界選手権の代表3枠を桐生、山縣、ケンブリッジらと争う。

「いい感じできてるんで、いまは自信あります」

 舞台は地元大阪。決勝レースの24日は21歳の誕生日でもある。時は来た。次こそ出るぞ。(朝日新聞記者・篠原大輔)

週刊朝日 2017年6月30日号