野村萬斎(のむら・まんさい)/1966年生まれ。東京都出身。狂言師。人間国宝・野村万作の長男。重要無形文化財総合指定者。構成・演出・出演した「敦ー山月記・名人伝ー」では、朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞を受賞。主演映画「花戦さ」が公開中(撮影/植田真紗美)
野村萬斎(のむら・まんさい)/1966年生まれ。東京都出身。狂言師。人間国宝・野村万作の長男。重要無形文化財総合指定者。構成・演出・出演した「敦ー山月記・名人伝ー」では、朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞を受賞。主演映画「花戦さ」が公開中(撮影/植田真紗美)

「歴史というのは、たいてい勝者に都合よく書かれているものです。でも、僕が中学生のときに観た『子午線の祀(まつ)り』は、勝者の視点ではなく、“子午線”の俯瞰した視点で、人間の営みについて愚かさを含めて描いていた。『平家物語』を題材にして人間存在を問う、壮大なスケールの作品でした。僕の演劇の原体験です」

 そう話すのは野村萬斎さん。

 木下順二作の叙事詩劇「子午線の祀り」は、昭和戯曲の金字塔とされている。能・狂言、歌舞伎、現代演劇で活躍する俳優とスタッフが、ジャンルを超えて創り上げた舞台は、“群読”という独特の朗誦スタイルが随所に用いられ、日本演劇史をひとつの作品で体現する舞台として、高く評価された。

「最初に観たときは、宇野重吉さんが総合演出を担当していました。僕の父(野村万作)が義経役でしたが、宇野先生に出会うことで、芸が変わったんじゃないかと思います。だって、父は狂言という様式美の出なのに対して、宇野先生の取り組んでいらした“新劇”は当時、言ってみれば、様式美を否定する親玉?みたいなものでしたから(笑)」

 2002年から世田谷パブリックシアターの芸術監督を務める萬斎さんは、劇場で上演する舞台の方針のひとつに、「伝統演劇と現代演劇の融合」を掲げている。同劇場の開場20周年にあたり、記念公演の演目に選んだのが、「子午線の祀り」だった。

「狂言師の家に生まれながら、僕は黒澤明監督の映画にも出ましたし、朝ドラもやって(笑)、舞台なら蜷川(幸雄)さん、栗山(民也)さんとご一緒したり、シェイクスピア劇も自ら演出したり、僕らの世代は、かなり早い段階から、古典と現代劇、映像と舞台、和ものと洋ものなど、あらゆる芝居の垣根を越えてしまっている。違うジャンルと交わることによって、表現のバリエーションや芝居の技術は広がっていくはずなんです。人物の内面を掘り下げる探究心と、表現のメソッドを磨くこと。役者として成長するために、常にその二つは両輪でなければならない」

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