今年1月にMRJの納入延期を発表した宮永俊一・三菱重工業社長 (c)朝日新聞社
今年1月にMRJの納入延期を発表した宮永俊一・三菱重工業社長 (c)朝日新聞社

 三菱グループの「御三家」のうち、2社が苦境にあえいでいる。銀行では社長交代でトップ人事のごたごたが露呈。重工は社運をかけた純国産航空機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」で5度の納期延長の失態。さらに造船業でも豪華客船の製造に手間取り、1千億円の受注に対して累計2500億円超の特別損失を計上した。三菱の名門企業が苦難に陥った原因をジャーナリストの井上久男氏が探る。

「三菱は国家なり」。三菱財閥の祖、岩崎弥太郎が政商として国家の発展に深く関わり、寄与したイメージから語られる言葉だ。弥太郎は1884年、官業の長崎造船局を借り受けて造船業を始めた。この祖業でも、重工はMRJと同様な失敗を繰り返してきた。

 客船世界最大手の米カーニバル傘下の独企業から豪華客船を2隻受注したが、設計に手間取ったうえ、1番船納入直前の2016年1月に長崎造船所で放火とみられる不審火が3回も発生。納入が予定より1年遅れた。

 豪華客船建造では、デザインや内装の材料も欧州風にするなど、高級ホテル建設のようなノウハウが必要になる。受注後、そのノウハウがないと気づき、欧州から職人を連れてきてコストが莫大に膨れ上がった。

 さらに深刻な課題も抱える。技術力の低下だ。

 長崎造船所に出入りする技術者は話す。「設計力の低下が著しく、設計が製造に出す部品の『据え付け要領書』も作成できない技術者が増えた。現場を知らない人間が上司になり、無駄な設備投資も多い。技能伝承も含めて、人材育成ができていない」

 MRJ事業と同様に過去とのしがらみを断ち切るため、宮永俊一社長は台湾新幹線プロジェクトの出身者らを責任者に据えるなど、門外漢を起用する人事をした。

 しかし、効果は見えなかった。如実に示すのが、15~16年にかけてのイージス艦の指名競争入札だ。

 現在配備されている6隻のうち5隻が三菱重工製。重工はプライドにかけても落札すると見られたが、いずれも競り負け、業界から驚きの声が上がった。

次のページ