再戦はかなうか (c)朝日新聞社
再戦はかなうか (c)朝日新聞社

「負ければ引退も」と悲壮な決意で臨んだボクシングのWBA世界ミドル級王座決定戦(5月20日)で、暫定王者のアッサン・エンダム(33=仏)に「誤審」で判定負けした村田諒太(31)。試合後は落胆を隠せなかったが、管轄するWBAのメンドサ会長が「117−110で村田が勝利していた」と公表。5月25日にエンダム勝利とした2人の審判を6カ月の資格停止処分とした上で、再戦を指示するなど、村田にとって光明が差す展開となっている。

 所属する帝拳ジムの本田明彦会長が「(興行は)約5億円規模」と明かすなど破格な巨額マネーが動いた世界戦。敗戦を重く受け止める村田を「(テレビ局が)東京五輪のスポーツキャスターなどで活躍させたい意向があった」(スポーツ誌記者)という。

 ボクシング関係者の証言。

「ロンドン五輪金メダル獲得後、進退を迷っていた村田を口説いたのは電通とフジテレビです。特に電通は子会社を『総合プロデューサー』としてフル稼働させ、4年間かけて全面バックアップし、スポンサー集めに奔走したようです。資金集めに苦労し、日本での試合を渋るエンダムのファイトマネーを上積みするなど、村田を将来的な『金のなる木』として先行投資を行った。結果的には赤字になった模様です」

「ボクシング・ビート」元編集長の前田衷(まこと)氏は「アマ時代から試合を見ているが、フィジカル面やパワー、技術など日本の重量級でこれほどそろった選手はいない。竹原慎二さん(元ミドル級世界王者)も恵まれていたが、『村田君は自分より上』とほめていた。エンダムと再戦し、村田にいい道が開けることを期待したい」と語る。

 ただ、「ボクシング界は同じ顔合わせになる再戦を見送りがちだ。ましてリスクの高いミドル級の興行を帝拳などが再度仕掛けてくるかは未知数」(前出の関係者)なのが現実だ。

「スーパー王者や暫定王者などタイトルマッチを乱造する商業主義のWBAへの不信感が帝拳には強い。本田会長の決断にかかっている」(同)

 一方で、最大の武器の右ストレートでダウンを奪った試合内容と五輪金メダリストとしての価値は高く、WBCやWBOから世界戦のオファーが舞い込むなど、追い風が吹いているのも事実だ。

 村田はマネジャーを通じて本誌に「世界再挑戦を前提に(決断を)言えるのを待っていてください」と決意表明。村田の強い矜持は、ビジネス重視の興行サイドの心を動かせるか。

週刊朝日 2017年6月9日号