妻:「同じ屋根の下に住んでいる意味がないじゃない。毎日、帰りが遅すぎる」と。

夫:これはマズいなと思って、あらためて一緒にいる意味を考えました。長く一緒にいるけれど、お互い仕事ばかり。一緒につくりあげるものとか、二人で共有するものをもっと大事にしないと、一緒にいる意味がないよなと。

妻:それまではマンション暮らしで、余計なものは置かない、買わない、シンプルな生活だったんですが、少し余裕もできてきたので、この家を建てることにしたんです。

夫:当然、引っ越ししたことを会社に報告するわけですが、独身で新築一軒家を建てるなんておかしいので、そのタイミングで結婚して、周りにも報告しました。46歳のときですね。

妻:ここに住み始めてから、趣味の物を買い集めるようになり、意外と好みが似てることに気がついたんですよ。庭の野菜やハーブを育てるのも彼は好きですし。私はお料理担当、お片付けやお茶をいれるのは彼の担当と役割分担も決まっています。頂き物のお菓子も、ひとつしかないときは必ず半分ずつ分けて一緒に食べるんです。物事をすべてシェアするのが私たちのスタイルですね。

夫:お互いおいしいものを食べるのが大好きなので。

妻:私は幸せなんです。一緒にお掃除した後、おいしいお茶をいれてもらってケーキを食べていると幸せだなと思うし、一緒にパンを焼いていると幸せだなと思うし。食べ物ってそういう魔法の力があって、それが40年近くずっと仲良くいられる秘訣(ひけつ)だと思います。

夫:生活を一緒に楽しむ時間は、二人の関係においてとても大事ですね。特に彼女が、毎日食べても飽きない体にいい家庭料理のプロだと自覚するようになってから、いくら食べても太らない、おいしい料理を作ってくれることに感謝しています。もう外ではほとんど食べなくなりました。

妻:「ありがとう」「おいしかった」と必ず言葉をかけてくれること。そのひと言を聞くだけで、料理したかいがあったとうれしくなりますから。何十年と一緒に暮らしていても、ちゃんと言葉にしないと伝わらないことってあるんですよね。

週刊朝日 2017年5月26日号より抜粋