帯津良一「好きな道を楽しんで歩むのが養生」
連載「貝原益軒 養生訓」
西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。帯津氏が、貝原益軒の『養生訓』を元に自身の楽しむ“道”を明かす。
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【貝原益軒 養生訓】(巻第二の18)
貧賤(ひんせん)なる人も、道を楽しんで日をわたらば、大なる幸なり。(中略)
如比にして年を多くかさねば、其楽(そのたのしみ)長久にして、其しるしは、寿(いのちなが)かるべし。
益軒は養生訓のなかで「楽しむ」ことについて何度も触れています。まずは、人の楽しみは三つあると説きます。
「一には身に道を行ひ、ひが事なくして善を楽しむにあり。二には身に病なくして、快く楽むにあり。三には命ながくして、久しくたのしむにあり」(巻第一の22)
つまり善い行いをして、健康で、長生きするのが、人生の楽しみ(人生の三楽)だというのです。さらに続けて「富貴にしても此三の楽なければ、真の楽なし」と言い切っています。また、「楽しみは是人のむ(う)まれ付(つき)たる天地の生理なり。楽しまずして天地の道理にそむくべからず」(巻第二の38)とも言います。
楽しまないのは天地の道理にそむくというのですから、益軒は決して堅苦しい禁欲主義者ではありません。
益軒には養生訓とは別に、いかに人生を楽しむのかを語った『楽訓』という著作もあります。「すべての人に楽しみはある。しかし、それを知らない。本来持っている内なる楽しみに気づけば、いつどこでも楽しい」といったようなことが書かれています。
楽しみについて語っているなかで、私が一番好きなのは、
「貧賤なる人も、道を楽しんで日をわたらば、大なる幸なり」
という養生訓のくだりです。たとえ貧しくても、道を楽しむことができれば大いに幸せだというのです。そして、その楽しみにより長命になると続きます。
「道を楽しむ」というのがいいですね。ここでいう「道」は儒教でいう倫理的な道でもなく、仏教でいう悟りの道でもありません。誰もが楽しむことができる道なのです。それは趣味であっても、仕事であってもいいのではないでしょうか。
