木下医師が患者から相談を受けた際に見せられた偽薬品。シアリスに100mg錠というのは存在しない(写真提供=木下隆央医師)
木下医師が患者から相談を受けた際に見せられた偽薬品。シアリスに100mg錠というのは存在しない(写真提供=木下隆央医師)

 ED(勃起不全)治療薬としてバイアグラが世界で初めて製品化されて20年近く。その後、レビトラ、シアリスなども登場した。一方、こうした薬の偽薬品も多く出回っている。2016年10月には、大阪府警がバイアグラの偽造品約30万錠を押収。「1回の押収量では過去最多の量」(製薬企業関係者)だ。“個人輸入”という名目でインターネットのサイトで偽薬品を購入するケースが後を絶たないという。

「先生、会社の後輩がインターネットでこんなものを買いまして。“使ってみれば”と言ってきたんです」

 そう言って50代の男性会社員がおもむろに取り出したのは、「C100」と刻印のある黄色い錠剤。渋谷駅前クリニック(浜松町第一クリニックグループ)院長の木下隆央医師は一目見て、苦笑した。

「シアリスの典型的なニセモノ。正規品には100ミリグラムはありません」

 偽薬品とはその名のとおり薬のニセモノだが、WHO(世界保健機関)では「表示された有効成分が含まれていない」「表示成分以外の有効成分が含まれている」「成分の量が表示と異なる」などと定義している。ややこしいが、このほかに「海外では正規品として使われているが、日本では承認されていないもの」もあり、ED治療薬では、バイアグラの100ミリグラム錠がそれに当たる。この場合は未承認薬として薬機法(※)の規制の対象になる。

「個人使用が目的で個人輸入する場合、違法ではありません。ですが、健康問題などが起こってもすべて自己責任です」(木下医師)

 実際、個人輸入の薬はどれくらい危険なのか。ED治療薬を製造・販売している4社(ファイザー、バイエル薬品、日本新薬、日本イーライリリー)は16年、日本とタイの調査会社に依頼し、「個人輸入代行」を銘打つ業者のネットサイトから商品を購入し、中身を鑑定した。その結果、約4割が偽薬品と判明した。今回は検出されなかったが、過去には覚醒剤やネズミ駆除に使われるホウ酸など、服用すると健康被害が及ぶ成分が含まれていたこともあったという。

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