向井:祖父はコンプレックスも抱えていたはずなんです。僕にとっての高祖父は一代で財をなしたけれど、そのせいで村の人たちの恨みを買った。曽祖父は家からチフスを出したために、それを苦にして自殺した。そんな境遇に育った祖父は、貧しい人の味方になりたいと一流大学を退学し、中国に渡ったのに、自分自身が食べていかれない状況に陥って、そこから抜け出すことができなかったんですから。

山本:不運続きでしたけど、吾郎さんは正義感が強く、曲がったことが嫌いで、損をしてでも一本筋の通った生き方を貫きましたよね。

向井:ある意味、貧乏というものへの危機感があまりなかったんだと思います。当たり前すぎて、同居しているみたいな感じだったんじゃないかって。

山本:貧乏をも笑ってしまう朗らかさがあったんだと思いますよ。

向井:家族が元気で一緒にいられるだけで、十分幸せだったんでしょうね。でもあの時代、ふたりと同じような思いで生き抜こうとした日本人が、ほかにも大勢いたと思うんです。

山本:戦争に翻弄され、戦後は貧しさに直面し、もがき、乗り越えてきた日本人は少なくないはずです。漫画家の水木しげるさんご夫妻もそうでしたね。

向井:「ゲゲゲの女房」のクランクインの前、水木しげるさんとお会いしたときに、「戦争で片腕を失い、仲間を失い、大変な思いをしたけれど、こうやって生きて饅頭を食って息を吸っているだけで僕は幸せです」と笑いながらおっしゃったんですよ。だから演じていて、水木さんの貧乏な時代も全然違和感がなかったんです。貧乏でも同じように笑って暮らしていた身内がいたわけですから。でも水木さんは漫画家として大成功しましたが、祖父は成功に縁のないまま、若くして亡くなりました。ですから、祖父の話はちょっと切ない。でも僕は、祖父に、どこか羨ましさを感じてしまうんですよ。

山本:わかります。私も脚本を書きながら羨ましかったですから。一緒にいるだけで満たされる相手と巡り合い、家族を愛し、自分の人生を生ききった。素晴らしいと思います。

ご自分のおじいさんの役を演じられて、いかがでしたか。

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