ジャーナリストの青木理さん(右)、政治コラムニストの早野透さん(撮影/写真部・小原雄輝)
ジャーナリストの青木理さん(右)、政治コラムニストの早野透さん(撮影/写真部・小原雄輝)

 母方の祖父・岸信介を慕う安倍晋三首相。しかし首相には、反戦の政治家として軍部と闘った安倍寛(かん)という父方の祖父もいた。『安倍三代』を著した青木理さんと、首相の父・晋太郎も取材した早野透さんが語り合った首相の執念とは?

青木理(以下、青木):私は政治記者ではありません。そんな私が『安倍三代』を書く際、政界にも永田町にも土地勘はありませんから、そこで勝負してもつまらない。むしろ、人間・安倍晋三がいかなる男なのかを描くのが私のすべき仕事だろうと考えたんです。早野さんも、田中角栄を知りたくて新潟支局に赴任したことがありますね。

早野透(以下、早野):朝日新聞政治部で田中首相の番記者を務めたあと、新潟支局員になって、旧新潟3区を歩き回りました。それは角栄というすさまじい被写体に魅入られたからです。

青木:通常の政治記者の取材だと、政治家から取る情報自体が重視され、こいつが一体何者なのかはあまり重視されない。もちろん知ってはいるけれど、なかなかアウトプットされません。また、世襲政治家である安倍首相のルーツを辿ることで戦後政治の流れを、論ではなくミクロなファクトを積み重ねて描けるのではないかとも思ったんです。

早野:政治記者はどうしても政局をウォッチしなくてはいけない。しかし仰(おっしゃる)るように、人々の気持ちがどこにどう繋(つな)がっているのかということは大事ですね。この本は、戦後政治のたたずまいを3人の親子の繋がりの中で描き、時代の移りゆきが実に鮮やか、自然な形で読ませてもらいました。

青木:安倍家の政治のルーツである安倍首相の祖父・寛も父・晋太郎も、実際に取材してみると魅力的でした。しかし、安倍首相ははっきり言ってつまらない。少なくとも政界入りする以前は、特筆すべきエピソードが全くない。魅力も磁力も感じない。そんな男があっという間に政権を射止める。不思議だと思います。現代日本政治のシステム的な問題点がいくつもあって、一つは世襲の増殖、もう一つは1990年代の選挙制度改革ではないかと思います。

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