しかも安倍政権を振り返ると、第1次政権のほうがチャレンジングでしたね。官邸主導だと言って官僚を近づけなかった。

早野:そうそう。政治主導だと言ってね。

青木:近づけたのは外務省の谷内正太郎と警察庁の漆間巌ぐらい。ところが第2次政権を見ていると、むしろ官僚の上にうまく乗るということを覚えたように思えます。特定秘密保護法にしても、安保法制にしても、共謀罪にしても、安倍政権が欲しいというより、警察や法務・検察、外務省が以前から欲しがっていたものでしょう。政治記者ではない私にはよくわからないのですが、むしろ安全運転で官僚の上に乗っているような印象を受けるのですが。

早野:それは違うんじゃないでしょうか。僕は安倍さんという人は、政治に向かう内なる闘志というか、天下を取るという秘めたる意志は、戦後史の中で他では見ないすさまじい執念だと思いますね。戦後の大宰相と、少なくとも在任期間に関しては並んできているわけです。あれだけの失敗の中からもう一度這い上がってきた、安倍晋三の政治家としての成長はあるのではないか。また失敗したら、こんなにみっともないことはない、そして決定的に政治生命が失われる。しかしそこをあえてもう一度、総理大臣を目指す。官僚に乗っかった安倍政治と言えば言えるけれども、しかしお人形さんというのではない。むしろ官僚機構をまるごと自分の政治勢力の中に置き、その先の目標に向かって用意周到に、国民を半分騙し、半分はまあ仕方ないと思わせて向かっていく。目標は明らかに憲法改正。いつの間にか安倍一強などという状況まで作ったわけです。

青木:ところで、早野さんは、晋太郎の政治活動を直接取材されていますね。

早野:そうです。三角大福中という、みんなそれぞれ二世じゃない、創業者のリーダーの時代がありました。一人ひとりがすさまじい政治的個性を持っており、戦いあって順番に総理大臣の座を射止めていったという世界です。その次は安竹宮だった。竹下(登)さんは地方政治から這い上がってきた迫力を感じさせたし、宮澤(喜一)さんは政治の中の知性というものでは人並みではない透徹したものを持っていました。安倍晋太郎という人は、茫洋とした人でしたが、何といっても人柄の良さがあって、やはり日本政治を総理大臣として担っていくべき人なのかなと思っていました。その前に亡くなってしまいましたが。彼は極めて平和主義だったし、護憲じゃなかったか。

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