大西氏は79年に伊勢丹に入り、紳士服売り場などを担当。03年にリモデル開業した新宿店メンズ館のプロジェクトを主導した。婦人服主体の百貨店業界で、大西氏は紳士服販売で成果を出した変革者。12年には、三越伊勢丹HD社長に就いた。

 就任以来進めたのは、ユニクロやニトリなどの専門店に押される百貨店の改革。「売り場に責任を持ちたい」として、アパレル会社に頼らず自社で商品を選別し、複数ブランドを同じ売り場に並べた。従業員や取引先に配慮し、正月の店休日も増やした。改革に取り組む姿は、業界の顔として何度もメディアに取り上げられた。

「百貨店業界では利益を重視するため、専門店をテナントとして誘致する動きがある。こうして不動産管理会社として生き残るのもよいが、百貨店に期待されるのは、やはりよい商品を仕入れて顧客に買ってもらうこと。大西さんはアパレル会社や専門店に頼らず、自力での改革にこだわった」

 こうした手腕を発揮した大西氏が公の場で説明することなく、後継の杉江俊彦専務(56)が3月13日、就任会見を開いた。杉江氏は経営戦略本部長として、大西氏を支える立場にあった。

 杉江氏は大西氏の改革について、「方向性は間違っておらず、基本的には変えない」と述べた。だが、経営手法については、「社外に向けて発信する一方で、社内での対話は少し不足していた」とも指摘。昨年11月の中間決算発表の場で、大西氏が整理縮小の対象として、伊勢丹松戸店、伊勢丹府中店、広島三越、松山三越の4店を名指ししたことも問題だったという。リストラへの不安が従業員の間に広がり、「発言に気をつけてほしい」と労働組合の反発も生んだ。

 会社側は、大西氏と三越出身の石塚邦雄会長(67)が業績悪化や現場の混乱について話し合った末、大西氏が自主的に退任を決めた、と説明する。ただ、複数の関係者によると、石塚氏や社外取締役らが辞任を迫り、大西氏も受け入れざるを得なかったという。

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