事実上の“解任劇”。花崎氏は「こんな理由でトップが辞めさせられたら、だれも経営なんてできなくなる」と手厳しい。

「赤字決算が続けば仕方ないが、業績は辞めるレベルまで悪化していない。社内の風通しの悪さを指摘する声もあるが、改革のためにトップが幹部へプレッシャーをかけるのは当たり前。今のままだと立ちゆかない店があることはわかっており、店舗の整理縮小を決算発表の場で答えることも、問題はない」

 花崎氏は、労組の反発がトップ交代につながったかのように報じられることも深刻な事態だと指摘する。ルミネ親会社のJR東日本で総務部長などを務め、国鉄時代も含めて労組対応に関わってきた経験からだ。

「労組が大西さんの改革に反旗を翻し辞任を迫ったかのような報道が相次いだ。トップ人事に労組が影響力を及ぼせば、やるべき改革も進められなくなる」

会社側は否定するが、騒動の背景には旧伊勢丹と旧三越の対立もありそうだ。

 両社は08年に経営統合したが、「閉店対象の地方店が多かった旧三越の幹部や社員に、不満がくすぶっていた」(流通業界に詳しい全国紙記者)。外国人観光客の爆買いが落ち着いたタイミングで旧三越幹部らが動き、旧伊勢丹の反大西派も取り込み、一気に引きずり下ろした。業界内にはこんな見立てがある。3月13日発表の幹部人事を「大西派とみられる人たちの相次ぐ左遷」と評する声もある。

 花崎氏は真相はわからないとしながらも、会社の体制に懸念を示す。

「経営統合したときから不安があった。統合は圧倒的な勢力差がないとお互いがぶつかってうまくいかないと、武藤さんにも助言していた。今回のようなことを認めるならば、不透明なトップ交代が今後も繰り返されるのではないか」

 コーポレートガバナンス(企業統治)に詳しい一橋大学大学院国際企業戦略研究科の一條和生研究科長も、会社が説得力ある説明をできていないことを指摘する。

「杉江氏の会見でも、なぜ辞めさせる必要があったのか明らかにされていない。報道では求心力を失ったなどとされているが、コンプライアンス違反など解任に値するような事実は見えてこない。企業として説明責任を果たせておらず、このままでは株式市場や消費者の不信感はぬぐえない」

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