伊勢丹の新宿店 (c)朝日新聞社
伊勢丹の新宿店 (c)朝日新聞社

 百貨店最大手「三越伊勢丹ホールディングス(HD)」の大西洋社長(61)が3月末で退く。表向きは自主的な退任だが、事実上の“解任”との見方が強い。「辞めさせる理由がない。改革路線の否定だ」。流通業界の先駆者の一人、花崎淑夫(はなざよしお)・元ルミネ会長(71)は異例の人事に異を唱える。

「小売業界で、三越伊勢丹はスター。頑張ってもらわないといけない。だからこそ、今回の人事はおかしいと言いたい。(報道で)伝えられている内容では、辞めさせる理由にならない」

 本誌記者にそう訴える花崎氏は、駅ビルのルミネのテナントを刷新し、若い女性を呼び込むファッションビルに生まれ変わらせた名物経営者。国鉄を経て2001年にルミネ社長に、09年に会長に就任。12年の退任後もファッション産業の人材育成などに取り組み、大西氏とも親しいという。

「3月6日の日経新聞に、辞任報道が出てびっくりした。(大西氏と)2月にも会ったが、辞めるようなそぶりは全くなかった。本人に経緯を聞いても今は語りにくいだろうから、あえて聞かないようにしている」

 会社側は大西氏の退任理由を詳しく公表せず、本人も公式の場で説明していない。伊勢丹新宿店「メンズ館」の成功など、小売業界のリーダーの一人だった大西氏の突然の退場に、社内外で驚きが広がった。

 花崎氏は国鉄が民営化した1987年ごろから、伊勢丹創業家の小菅国安氏ら歴代経営陣と交流があった。三越伊勢丹HD元社長で10年に亡くなった武藤信一氏とも親しい間柄。その武藤氏が09年、HD傘下の伊勢丹社長に大西氏を抜擢した。花崎氏は武藤氏から、大西氏の実力はすごい、と評価の声を聞いていた。

「大西さんは伊勢丹メンズ館の立ち上げ時、失敗したら辞める覚悟で挑んで成功させた。現場第一主義で、どうすればお客様を引き寄せられるのかをいつも考えていた。成長が止まった百貨店業界の立て直しには、大西さんしかいないと期待されていた」

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