森友学園の籠池泰典氏の証人喚問がついに国会で行われた。ジャーナリストの田原総一朗氏は安倍晋三首相が籠池氏から売られたケンカを買ってしまったとみる。
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 3月9日に大阪で大勢のメディアに囲まれて大阪府が4月の開校を認めないとしたことに強い怒りをぶちまけた籠池泰典氏が、翌日、百八十度姿勢を転換して大阪府に対する認可申請を取り下げ、籠池氏自身が森友学園の理事長を辞めると表明した。前回、私は、この姿勢の一変には、影響力の強い政治家が絡んでいるのだろうと記した。

 ところが、16日に現地視察のために問題の小学校予定地を訪れた参院の議員団に対し、籠池氏はなんと「この学園をつくるための寄付金には、安倍総理からの寄付金も入っている」と宣言した。籠池氏が頼る著述家の菅野完氏の話によると「寄付をしたのは昭恵夫人で、現金のやりとりをしたのは、昭恵氏が小学校の名誉校長に就任した日であり、金額は100万だ」ということだ。

 そして菅野氏は、籠池氏側から提供された寄付者名簿と郵便局の払込取扱票をネットで公開した。それによると、郵便局への入金は2015年9月7日となっていて、受領証の「依頼人」欄では当初、「安倍晋三」と書いた手書きの文字を修正テープで消し、「森友学園」と直した痕跡が残されているのである。

 これは、あきらかに籠池氏が安倍首相にケンカを売ったことになる。現役首相に挑むのだから、捨て鉢のケンカだ。一度は全面的に政府に従ったと見えた籠池氏にここまでの覚悟をさせたのは何だったのか。

 籠池氏の発言を受け、籠池氏の参考人招致を固く拒んでいた自民党は、参考人招致よりもはるかに強烈な証人喚問に決めた。これには野党の議員たちも驚いているが、どうやら決めたのは安倍首相のようだ。籠池氏を無視せず、ケンカを買ったということなのだろうか。

 3月23日の午前と午後、参議院と衆議院で証人喚問が行われた。

 
 自民党の議員は、昭恵氏が100万円寄付した事実はなく、籠池という人物がいかに信用できないかを際立たせようとしたが、逆に昭恵氏が100万円を寄付した状態が具体的になった。籠池氏に小学校を建設する資金がなかった、と細かく追及したことで、そんな森友学園の小学校開校を認可した大阪府の責任が問われることにもなった。

 籠池氏によれば、小学校の土地の賃借について昭恵氏に助けてもらおうと留守番電話にメッセージを残したところ、経産省出身の夫人付職員からファクスが届いたという。昭恵氏は籠池氏から頼まれてはいないと否定したが、籠池氏が秘書に直接頼むなんてことがあるのだろうか。

 さらに、小学校設立の認可については、元大阪府議会議長を通じて、松井一郎大阪府知事側に働きかけをしていたとも証言した。そして最後の段階で、その松井知事にハシゴを外された、とも言う。

 そして、国有地の価格が評価額の7分の1以下になったことについて、籠池氏は「神風が吹いたのだろう」と言い、政治家の介入を認めた。何人かの政治家の名前をあげたが、いずれも影響力を行使できるような政治家ではない。籠池氏は、戦略的にとぼけているのではないか。

 23日の証人喚問は、疑惑が深まり、これが真相追及のスタートである。それにしても、24日には迫田英典国税庁長官、武内良樹財務省国際局長を参考人招致したが、なぜ「私人」の籠池氏を証人喚問しながら、官僚たちは参考人招致なのか。納得できない。

週刊朝日  2017年4月7日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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