私が聞いている限り、官邸や内閣法制局は当初から譲位には消極的で「制度設計が難しい」「天皇の意思で辞めるとなると憲法に抵触する」と、硬い姿勢だったという。何とか典範改正できないかと真剣に検討した形跡がみえてこない。

 長年積み上げて定着していた憲法9条の解釈を根底からひっくり返し、膨大な安保法制をあっという間に立案した今の有能な内閣法制局に、譲位を可能とする典範改正案ごときは、政権の注文があれば朝飯前ではないかと思うのだが。

 譲位を認め上皇という身分をつくるなら、典範だけでも、崩御継承を定めた第4条だけでなく、身分や敬称に関する第5条、8条、11条、17条、23条、陵墓に関する27条、皇室会議に関する35条なども改正せねばならない。皇室経済法、宮内庁法などの手直しも必要と、多岐にわたる。

 そのほか皇位継承儀式や元号施行のあり方も大幅に再編成をせねばならない。これには宮内庁にも戦前の旧典範時代の皇室令のようなマニュアルはないため、歴史と現代性をにらんでどうあるべきか、新たに練り上げねばならない。

 例えば即位の礼ひとつとっても、平成2年には66カ国もの国王、大統領らの元首級はじめ国内外の2500人の列席を求めた史上空前の大掛かりな儀式だった。今の時代に同じことができるのかどうか。

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