「講書始の儀」に出席する天皇、皇后両陛下 (c)朝日新聞社
「講書始の儀」に出席する天皇、皇后両陛下 (c)朝日新聞社

 現天皇一代限りの譲位とする特例法か、皇室典範改正か──。皇室航路の分岐点となる綱引きが大詰めを迎える。有識者会議は特例法の方向に論点整理をまとめ、舞台は国会へ。同会議で「典範改正の王道を」と訴えた岩井克己・朝日新聞皇室担当特別嘱託が厳しく検証する。

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「結論ありきだ」と評判の悪い有識者会議だが、私はそれなりに奮闘し良識も示されたとは思っている。何しろヒアリング対象の人選で「天皇のお気持ち表明はおかしい」「退位反対」という論者があまりに多く、譲位を圧倒的に支持する国民世論とかけ離れていた。それでも何とか譲位容認の方向を打ち出し、現政権が狙う今上天皇限りの特例法に絞らず、皇室典範改正による恒久制度化との事実上の両論併記で踏みとどまったからだ。

 ただ、典範改正の難点を23項目も並べて特例法へと誘導する印象操作で、公平な両論併記とは言いがたい。ヒアリング対象に選ばれて「典範改正の王道を」と訴えた立場から同会議の「論点整理」を点検すると、いずれも反論や疑問符が浮かぶものばかり。もちろん今の段階では論議の参考に論点を示しただけということかもしれないが、思いついたものを体系性なく並べ立てたとの印象がぬぐえない。

 例えば、憲法第2条は皇位継承を国会の議決した皇室典範によると特記しているから特例法では違憲の疑いも出るとの主張に対し「特例法や典範付則の法形式でも可能では」としているが、これだけでは典範改正が望ましいとの意見への反論になっていない。

 年齢の問題を持ち出して「将来の天皇や継承者はいろんな年齢があり、80代の天皇が70代の継承者に譲るといった不都合がないようにせねばならず、前もって決めておくのは難しい」としている。しかし、現在の崩御継承は、そうした「不都合」も動かしがたい前提となっており、むしろ生前譲位のほうが緩和されるだろう。

 また、恒久的な制度化の場合は将来の譲位の要件は一般的・抽象的になり、時の政権の恣意的(しいてき)な判断を正当化するとしているが、特例法は将来の要件を定めないので、このほうが特例法でどうにでもできる道を開くのではないか。朝日新聞が1月25日付の社説で「ルールがあると権力の勝手を許すという主張で、理解に苦しむ」と書いたが、その通りではないだろうか。

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