ひとつの音楽性に固執する彼らではなく、1970年代後半になると「手をとりあって」「ムスターファ」など非英語圏文化を取り入れ、「愛という名の欲望」「地獄へ道づれ」でアメリカ文化に接近するなど、純然たるイギリス色は薄れていくが、『クイーン/オン・エア~BBCセッションズ』で聴くことが出来るのは、イギリスの君主である“女王=クイーン”をバンド名にしたのも納得の英国サウンドだ。

(クイーンが男性の同性愛者を指すスラングでもあり、ブライアン・メイとロジャー・テイラーが乗り気でなかったのをフレディ・マーキュリーが押し切ったのは有名なエピソードだ)

 このようにクイーンが純イギリス的な音楽性を追求していたのは、誇り高き“大英帝国”の最後の輝きだった。それまで世界経済の盟主だったイギリスだが1971年の新ポンド制度の導入後、経済が停滞。“英国病”という言葉が生まれるなど、その威厳は地に落ちていく。

 それまで無条件で敬愛されてきた英王室も1977年、セックス・ピストルズが「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」で「女王なんて人間じゃない」と非難。クイーンも1986年の「心の絆」で人生を憂鬱にさせる一因にポンドの下落を挙げている。

 英国レコード産業協会が主催する音楽の祭典BRITアワードで1990年、クイーンは“英国音楽への多大なる貢献”で表彰されている。それはフレディが公の場に姿を現した最後の舞台となり、彼は翌1991年11月24日、世を去ることになる。『クイーン/オン・エア〜BBCセッションズ』は、かつてのクイーンと大英帝国の“輝ける日々”を偲ばせる作品である。(山崎智之)

週刊朝日 2016年11月18日号