「近年、患者報告数は著しく減って、ここ10年間では年間10人弱の報告があるだけです。ただ、2015年には千葉県で生後11カ月の幼児が発症したこともあり、推奨する接種時期を早めたのです」

 定期予防接種にHBワクチンが増え、日本脳炎ワクチンを前倒ししたことで、0歳で打つべきワクチンは「定期接種」が6種類、「任意接種」が1種類となった。1歳から開始できるものも含めると、計10種類だ。「少なくとも1歳半までに、日本脳炎ワクチンも含め24回の予防接種を受けてほしい」(太田医師)という。

 スケジュールの問題を解決できる方法の一つに同時接種がある。2種類以上のワクチンを1回の通院で済ませるもので、世界的には一般的だという。上の図は、VPD会がすすめる0歳児の予防接種スケジュールだ。

「保育園に入る前に一通り済ませるために、6種類のワクチンを一度に打つ例も。同時接種なら1歳半までに定期、任意の予防接種を無理なく終えることが可能です」(同)

 東京都葛飾区の永寿堂医院(小児科・内科)は、毎週木曜日を「ワクチンの日」に充てている。記者が訪ねた日も、多くの親が子どもの予防接種で来院していた。

 診察室に入った親子に、院長で小児科医の松永貞一医師が必ずするのは、「今日は何のワクチンですか?」という質問だ。これに対し保護者は、「今日は日本脳炎とインフルエンザです」「2回目のヒブと、“プレベナー”(小児用肺炎球菌ワクチンの製品名)です」など、スラスラ答える。

 診察と注射にかかる時間は1、2分。流れ作業のように淡々と進められ、不安を口にする保護者はいなかった。この日、ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンを接種した4カ月の男の子の母親(30代)は言う。

「先生からは、“命を守る危険度の高い病気のワクチンから打つ”と教わりました。1人目なのでわからないことが多かったけれど、先生がワクチンのスケジュールを組んでくれているので、不安はありません」

 大学病院では、治療した重症のはしかの子の死亡を何人も経験し、ワクチン外来も担当した松永医師。同院では乳児健診時に1人1時間ほどかけて、予防接種の正しい知識についても教えている。松永医師は言う。

「予防接種の目的は、お子さんをワクチンで防げるはずの感染症で死なせないこと。一方で、接種後に何らかの副反応が出ることもあるので、正しい理解の上で受けることが重要です」

 どのワクチンも接種後しばらく間隔を空ける必要があり、熱などの症状があれば打てないため、スケジュールを組み直す必要がある。たいへんかもしれないが、予防接種をしないまま麻疹などにかかったら、重症になる心配だけでなく、親は子どもの看病のために仕事を休まねばならず、経済的な損失も大きい。

 子どもの予防接種では接種時期や接種回数が頻回に変わることも珍しくないため、小児科医と常に情報共有をしていくことが大事だ。例えば、VPD会のホームページでは、同会で情報を共有している会員(小児科医)をエリア別で紹介している(http://www.know-vpd.jp/mbr_list_index.htm)。

週刊朝日  2016年10月28日号