労働団体からが「報告書」に反発する声も (c)朝日新聞社
労働団体からが「報告書」に反発する声も (c)朝日新聞社

 安倍官邸は9月、「働き方改革実現会議」を設置。まず「同一労働同一賃金」の実現に向け、非正規雇用者の賃金を正社員の8割程度に引き上げるなどの検討作業に入った。それに先立ち、「働き方の未来2035」懇談会の報告書が8月、まとめられた。事務局次長を務めたジャーナリストの磯山友幸氏がその“内幕”を寄稿した。

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懇談会は、政府のこの手の会議としては珍しい「問題設定」のもとにメンバーが集められた。独立性が命のジャーナリストである私が事務局次長となることには抵抗があったが、謝礼や交通費など一切の報酬を辞退することで引き受けた。報告書はメンバーが分担執筆したもので、役人は一文字も書いていない。

 ほとんどの政府の会議は目の前の政策課題について議論するために設けられているが、利害がぶつかる分野では、政策のあるべき姿よりも、当事者間の利害調整が優先される。中でも労働政策は、使用者(企業)と労働者の利益調整の上に組み立てられた歴史を持つため、政策の大転換は難しい。そうこうしているうちに世の中の働き方は一気に変わり、政策や法律がすっかり時代遅れになる。そんな危機感が厚労省の中にも広がっていたのだろう。

 議論をしていくうちに、すぐさま労働法制の「壁」を感じた。私たちが感じている「働き方」と、現状の労働法制が想定している「働き方」に明らかにギャップがあるのだ。そこで、まず20年後のことを考えてみる、という手法の有効性を感じた。実際、20年後の働き方を考えた場合、今の労働法制が想定している「働き方」とまったく変わっている可能性が高いのだ。

 朝9時から午後6時まで機械や机の前に座って決められた作業を繰り返す。労働基準法が根幹を置く「働き方」は明らかに近代資本主義社会で急増した「工場」での働き方を前提にしている。だが、何時から何時まで決まった場所で、という仕事の多くは、今後20年間で間違いなく機械やロボット、人工知能に置き換わっていくだろう。かつて鉄道の改札口には1カ所1カ所に人が立ち、軽快なリズムを鳴らしてハサミで切符を切っていた。改札員の技がどんなに素晴らしかったとしても、今はもはや自動改札機に置き換わり、切符すらSuicaなどの電子カードに置き換わり、機械によって完全に姿を消したのである。今後20年でもこれに似たことがさまざまな分野で起きるに違いない。

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