追い打ちをかけるのは、メーカー側の事情だ。MRワクチンを製造するのは、武田薬品工業、阪大微生物病研究会(販売は田辺三菱製薬)、北里第一三共ワクチン。このうち北里第一三共は昨年10月、有効成分が承認規格値を下回る可能性があるとして自主回収。「出荷再開の時期は未定」(第一三共コーポレートコミュニケーション部)だ。現在は二つのメーカーで供給を賄っている状態だ。

 MRワクチンの不足の問題は、今に始まったことではない。13年に風疹が流行した際も不足。それ以前も同じことが繰り返されている。なぜ、改善されないのか。その事情を厚労省の関係者が明かす。

「もともと予防接種法には、突発的な流行には臨時予防接種が導入できる枠組みが設けられています。厚労省は予防接種を推進するため11年に結核感染症課に“予防接種室”を設置しました(現在は健康課)。ところが、流行があっても刀は抜かない。積極的な予防接種政策には踏み出しません」

 そのワケは何か。関係者は続ける。

「ワクチンは時として副反応を起こすので、日本では反対運動が強かった。何度も訴訟を起こされ、国側が敗訴してきたからです」

 本来なら、新型インフルエンザのタミフルのように、流行が確認されたら、国がメーカーに増産を指示。国が買い取り備蓄して、管理する体制などが必要だ。

 MRワクチンは弱毒生ワクチン(ウイルスなど病原体の病原性を弱めたもの)で、使用期限も1年間(阪大微研のワクチンの場合)と短い。需要がなければメーカーや医療機関は不良在庫を抱えることになり、その負担は大きい。感染症に詳しいナビタスクリニック新宿の久住英二医師は、今回の感染とワクチン不足について「国の不作為の結果。人災だ」と憤る。

「厚労省が麻疹をはやらせたわけではありません。ですが、少なくとも13年の風疹の流行後に、免疫のない人たちへのMRワクチン接種を粛々と進めていたら、こういうことは起こらなかったと思います」

週刊朝日 2016年9月30日号より抜粋