実際のところ、核ミサイルの発射の兆候を察知し、事前に破壊するなどということは、自衛隊はおろか米軍でもほぼ不可能だ。

 北朝鮮は弾道ミサイルを各地の地下施設に隠しており、有事にはそれを迅速に移動して発射する。それを上空からリアルタイムで見つけることはまずできない。

 したがって、巡航ミサイルなどのいわゆる「敵基地攻撃能力」を自衛隊が持っても、核ミサイルの発射は阻止できない。そうなると、できるのは飛来するミサイルを撃ち落とす「ミサイル防衛」だけだ。

 しかし、そのミサイル防衛も、一斉に多くのミサイルを撃ち込まれた場合(軍事用語で「飽和攻撃」という)には、対処が追いつかない。たとえばイージス艦1隻が対応できるのは、現実にはおそらく1発のミサイルだけだ。

「撃ち込まれる核ミサイルが数発だけでも、同時に通常弾頭のミサイルも撃たれれば、それを見分けることはできない。同時に多数のミサイルに対処しなければならず、必ず撃ち漏らしが出ます。そのミサイルに核弾頭が搭載されていれば、悲劇的な大惨事は免れないでしょう」(前出の関係者)

 つまり、北朝鮮が核ミサイルを持ったということは、日本の完全な安全保障は崩れたということを意味する。

 また、金正恩政権の統制が崩壊し、無政府状態に陥っても、もはや死を覚悟したミサイル部隊指揮官が、自暴自棄になって核ミサイルを発射する可能性もある。こうした破滅覚悟の非合理的な核ミサイル発射に対しては、どんな抑止力も効果はない。

 韓国では核武装論も一部に出てきているが、たとえ韓国が核武装しても、自暴自棄な核ミサイル発射は止められない。もちろん日本が核武装しても同じだ。

 こうなった以上、むしろ金正恩政権が安定していたほうが、危険度は少ない。しかし、北朝鮮は極端な個人独裁国家であり、内部崩壊の可能性が常にある。

 金正恩は幹部の粛清で徹底した恐怖支配を実行しているが、それは命がけの反乱を誘引しかねない諸刃の剣でもある。クーデター、あるいは幹部による金正恩暗殺が起こるかもしれない。

 そうなれば一切のコントロールのない状態に、危険な核ミサイルが残されることになる。日本はもう北朝鮮の核の恐怖から逃れることができないということを自覚すべきだろう。

週刊朝日 2016年9月30日号