同時通訳者として活躍され、現在はNHKの「ニュースで英会話」などでもおなじみの鳥飼玖美子(とりかい・くみこ)さん。英語教育の第一人者でもあります。これまでかなりのお金と時間を英語に費やしたという作家の林真理子さんが、学習のコツから教育のあり方まで伺いました。
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林:鳥飼さんの本を読んだら、またやる気になってきました。「英語を聞き流すだけでは意味がない」とありましたね。私、そういう教材を買ったんですが……。
鳥飼:シャワーのように聞いても、流れ落ちてしまうだけなんです。読んでわからない単語は聞いてもわかりませんから、回り道だと思っても英文を読んだり語彙を調べたりして、頑張るしかないんですね。
林:私がやったことは間違ってたんですね。英会話学校にも通ったし、個人教授にもついたし……。
鳥飼:いろいろ試されたんですね。
林:「英文をたくさん読むことが大事」とも書かれていましたが、私の友達の和田秀樹さん(精神科医)も、同じことを言ってましたよ。受験生たちに、「英語はとにかく長文をたくさん読みなさい」って。
鳥飼:たくさんの英文を読むことで、着実に語彙が増えます。「多読」と「精読」のどちらも大事ですが、多読のときは「これがわからないと内容が把握できない」という単語だけ辞書で調べて、あとはどんどん読み進めればいいんです。
林:鳥飼さんは、会話重視の英語教育には反対なんですよね。
鳥飼:中曽根(康弘)首相のときの臨時教育審議会で「文法・読解中心からコミュニケーション重視への転換」という要請があって、学習指導要領が改訂されたんです。それ以来、「英語はコミュニケーションだ。とにかく会話だ」となって、読解や文法が軽視されるようになった。でもそれで今の若者が英語をしゃべれるようになったかというと、そんなことないんですよ。
林:ほんとに不思議ですよね。こんなに英語、英語と言っているのに、渋谷で外国人が困ってても、誰も助けられないんですから(笑)。
鳥飼:ねえ。英語教育のやり方にも問題がありますが、日本人はまず「マメに話す」ことをしないとダメです。自分の考えを相手に伝えるという訓練がなされてないんです。
林:ほんとにそう思います。いまの人たち、「カワイー」「ムカつく」「聞いてない」「ヤバい」。この四つの単語だけを駆使してますからね(笑)。
鳥飼:英語以前に、日本語のコミュニケーション能力を何とかしないと。
林:「日本人は英語に向いていない民族だ」と言う人もいますが、それについてはどうお考えですか。