あの事件取材で出会っていた…(※イメージ)
あの事件取材で出会っていた…(※イメージ)

 突然、響き渡る発砲音。警察の特殊部隊は男に銃を向ける。「救急車や」と大きな声が聞こえ、現場は騒然。救急車に運び込まれた男は、ほとんど動かず、死亡が確認された──。

 8月29日午前8時50分ごろ、和歌山市の建設会社、和大(わだい)興業で4人が拳銃で撃たれた。うち石山純副(じゅんすけ)さん(45)が死亡。一緒にいた従業員3人も重傷を負った。

 撃ったのは、この会社の経営者の次男、溝畑(みぞばた)泰秀容疑者(45)。この日、溝畑容疑者は刑務所に収監される予定だったという。

「去年だったか、急に会社に来なくなり連絡もつかない。しばらくして覚醒剤で逮捕されていた。この日刑務所行きだからと他の社員を、これからの経営について話したいと呼び出し、普通に話が進んでいた。それが突然、怒り出し拳銃を手にして撃ち、逃げる暇もなかったそうです」

 と和大興業関係者は言う。

 溝畑容疑者は拳銃を手に現場から逃走。JR和歌山駅近くで逃走に使用した車両がすぐに発見。身柄確保も早いかとみられたが、行方不明のまま緊張が続いた。

 30日夜、和大興業近くで溝畑容疑者が自転車に乗っているのを元従業員が発見。警察が駆けつけると溝畑容疑者は発砲し、アパートの空室に逃げ込んだ。

 大阪府警の特殊部隊も投入され、一帯はパトカー、救急車で埋め尽くされる。

「住宅街の住民全部が人質にとられたようなもの」(捜査関係者)

 誰も外出できない切迫した現場。溝畑容疑者がアパートの廊下に姿を見せると、警察が説得を始めた。

「母親に200万円渡してくれ」「腹が減った、中華丼とビールを差し入れろ」

 支離滅裂な要求をしたかと思うと、日付が変わった31日朝には2度発砲。隣接する建物の足場から報道陣の前に現れ、拳銃で撃つようなしぐさを繰り返した。

 投降を勧める説得が続いたが、溝畑容疑者は「覚悟は決まっとるんや」。

 そして、午後6時40分、突然アパートの廊下から飛び出した溝畑容疑者。

「銃撃戦じゃあ」

 と叫びながら自らの拳銃を腹に向け発砲。冒頭のような大混乱となった。

 今から15年以上前、記者は溝畑容疑者と会ったことがある。和歌山カレー毒物混入事件の取材でずっと和歌山市にいた時だ。知人の建設会社社長と飲食店で話をしていると、急に店員に怒鳴る男がいた。それが、溝畑容疑者だった。

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