たまたま知人が溝畑容疑者やその両親と面識があり、「そんな弱いもん、いじめんな」と中に入り、収まった。

 当時、まだ20代後半だった溝畑容疑者。我々の席にやってきて「格好悪いことですいません」と頭を下げた。体格はガッチリしたこわもて、生きのいい兄ちゃんという印象だ。

「あいつ、すぐキレる。それにクスリやるんや。それがなかったら、いいやつで親の会社、きちんとやっているんや、心配だ」(知人)

 そして時がたった。

「15年ほど前にあんたと会ってからも、クスリがやめられずヤクザもんと付き合うなど大人になれん。いつかなんかやらかすと思ったが、これほどの大事件とは」

 事件を知った知人は唇を噛んだ。

 現場に残されたカバンにはナイフや犯行に使用したものとは違う1丁の拳銃、覚醒剤とおぼしき粉末などに加えて、会社への不満と、母親に宛てたメッセージがノートに残されていた。捜査関係者によれば、

「お母さん、こんな事件をやってしまい申し訳ない」

 だが、「こんな事件」の真相を語ることは、永遠になくなってしまった。(ジャーナリスト・今西憲之)

週刊朝日 2016年9月16日号