ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、メリット・デメリットが騒がれる「ポケモンGO」について論じる。

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 任天堂が企画に携わり、発表から世界中を席巻しているスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」の勢いが止まらない。同ゲームの最大の特徴は、外出先でプレーすることが前提になっていることだ。外に出ないとゲームを進められないことが様々な問題をもたらし、メディアが連日報道している。

 もっとも大きな問題は歩きスマホ族の増加だろう。地図を表示させながら歩くのと異なり、ポケモンGOは画面に集中しなければプレーできないため、身近に危険が迫っていても認識できない可能性が高まる。歩きスマホだけでなく、自転車や自動車を運転しながらポケモンGOをプレーしたことが原因の交通事故も報告されている。

 もう一つの問題はポケモンGOによって人の動線が変わることだ。プレーヤーは、ポケモンを捕まえるため、公園、神社仏閣など現実のランドマークを訪れる必要がある。このため、勝手に私有地や立ち入り禁止の場所に入る不届き者が出てきたり、「レアなポケモン」が出ると言われる公園に深夜大挙してプレーヤーが集まって騒いだり、住民から騒がしくて寝られないといった苦情が警察に寄せられている。既に広島市の平和記念公園や藤沢市の江の島など、深夜に立ち入れないよう車両規制を始める自治体も出てきた。

 こうした状況を受け行われた毎日新聞の世論調査(8月3、4日実施)によれば、ポケモンGOに「規制を設けるべきだ」と答えた人が73%にも上った。確かに起因する問題はいくつもある。しかし、それは本当に「ポケモンGO由来の問題」なのか。例えば、歩きスマホの問題は、以前から叫ばれていたし、スマホをしながら運転して事故を起こす事例もニュースにならないだけで、世界中で日常茶飯事だ。これらの問題はポケモンGOだけを悪者にしても解決しない。

 
 一方、人の動線が変わることに起因する問題はポケモンGO由来であることが多い。しかしこれはプレーヤーにルールやマナーを徹底させることである程度は対処可能である。

 振り返れば、携帯電話にカメラ機能が搭載されたときもプライバシーやデジタル万引きなど、様々な問題が指摘された。新しいメディアが登場し、勢いをもって普及すると、拒否反応は当然出る。だからこそメディアは、ポケモンGOの持つ可能性と問題点を冷静に指摘する必要がある。

 ポケモンGOはこれまででもっとも成功したAR(拡張現実)アプリだ。ゲームが「現実」に影響を及ぼすことで齟齬(そご)が生まれる。だが、プラスの影響も与えられることを忘れてはならない。鳥取県のように地域振興につながった例もあれば、ポケモンGOをしながら町中の清掃をしている人もいる。多くのプレーヤーが夜間に町中を歩くことで、放火や窃盗犯を減らす効果があるかもしれない。やみくもに否定せず、対策を考え、ポケモンGOをどう社会に生かすべきか建設的な議論を始めるべきだ。

週刊朝日  2016年8月26日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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