落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「同窓会」。
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何年か前、高校の同窓会に出席した。今まで何度も開催されていたのだが、どうにもスケジュールの都合がつかずようやく参加できた。
久しぶりに友と再会できる喜びに胸が高鳴る、というより、「何かマクラやコラムのいいネタが拾えるかな?」という、やましい気持ちでの参加。だからちょっと後ろめたい。
大宮の某ホテル宴会場。男子高である。見渡す限りの30代半ばの男の群れ、その数200人余り。おっさんになりかけの働き盛りが「ゴヴェゴヴェゴヴェゴヴェ……」というおっさん特有の低音を発しながら旧交を温め合っている。
そして会場がくさい。おっさん臭を抑えようとしてデオドラント剤を使用している、自分がおっさんであることを意識しはじめた世代の臭い。「中間管理臭」がむんむん。でも同性ばかりなので、周りに気を使うこともなく場は盛り上がっていた。
20年の歳月は残酷だ。あちこちからこんな声が上がる。
「おまえ、ハゲたなーっ!!」
あれほど男前で、他校の女子に校門で出待ちされていたサッカー部のあいつもハゲ。あの時から挙動不審で、部室で爆弾作ってるんじゃないか?と噂されてた化学部のあいつもハゲ。学年主任の先生もツルピカ。かくゆう私もハゲてきた。
20年分のハゲは人それぞれ。ハゲは笑えるからいい。
太ったなー。痩せてかっこよくなったなー。これも微笑ましい。なかには、
「……おまえ、太り過ぎてない?」
「いやー、仕事と家庭のストレスかなぁ……」
と言いながら延々と五目焼きそばをビールで流し込んでいる彼。体重が倍くらいになって、面影は皆無。過ぎるのはよくない。そんなに笑えない。
「痩せたなー……大丈夫か?」
「去年の暮れから体重減ってさ、食べらんなくて……」
健康診断に行け、とみんなから諭されても「なかなか時間とれなくて……」と応えるあいつ。かなり笑えない。
「来年、県議会選挙に出ますんでよろしくお願いいたします!」
同級生なのに敬語を操っている現・秘書の彼。なんだかあまり笑えない。
「○組の△△、死んじゃったってよ」
「うそ!! なんで!?」
「いろいろあったみたい……」
ホントに笑えない。
「□□先生、認知症でホームに入ってるそうだ」
「あのおっかなかった先生が!?」
うーん、笑えない。
変化はハゲくらいにとどめておいてもらえるとありがたい。
「Aが来てないな」
「あいつ、性別変わったってよ」
「え………まじで?」
「店、始めたってさ」
「そういうお店?」
「ブログやってんだ。見る?」
スマホでAの店のブログをこわごわ覗く。
「可愛いな、A……」
「なんでもっと早く気づかなかったんだろうな、俺たち」
卒業アルバムのAはイガグリ頭で鹿せんべいを咥えておどけていた。「いやはや、いやはや」が口癖であだ名は「村長」。
20年で村長がママになっていた。同窓会もなかなかいいもんだ。
※週刊朝日 2016年8月12日号