落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「同窓会」。

*  *  *

 何年か前、高校の同窓会に出席した。今まで何度も開催されていたのだが、どうにもスケジュールの都合がつかずようやく参加できた。

 久しぶりに友と再会できる喜びに胸が高鳴る、というより、「何かマクラやコラムのいいネタが拾えるかな?」という、やましい気持ちでの参加。だからちょっと後ろめたい。

 大宮の某ホテル宴会場。男子高である。見渡す限りの30代半ばの男の群れ、その数200人余り。おっさんになりかけの働き盛りが「ゴヴェゴヴェゴヴェゴヴェ……」というおっさん特有の低音を発しながら旧交を温め合っている。

 そして会場がくさい。おっさん臭を抑えようとしてデオドラント剤を使用している、自分がおっさんであることを意識しはじめた世代の臭い。「中間管理臭」がむんむん。でも同性ばかりなので、周りに気を使うこともなく場は盛り上がっていた。

 20年の歳月は残酷だ。あちこちからこんな声が上がる。

「おまえ、ハゲたなーっ!!」

 あれほど男前で、他校の女子に校門で出待ちされていたサッカー部のあいつもハゲ。あの時から挙動不審で、部室で爆弾作ってるんじゃないか?と噂されてた化学部のあいつもハゲ。学年主任の先生もツルピカ。かくゆう私もハゲてきた。

 20年分のハゲは人それぞれ。ハゲは笑えるからいい。

 太ったなー。痩せてかっこよくなったなー。これも微笑ましい。なかには、

「……おまえ、太り過ぎてない?」
「いやー、仕事と家庭のストレスかなぁ……」

 と言いながら延々と五目焼きそばをビールで流し込んでいる彼。体重が倍くらいになって、面影は皆無。過ぎるのはよくない。そんなに笑えない。

「痩せたなー……大丈夫か?」
「去年の暮れから体重減ってさ、食べらんなくて……」

 健康診断に行け、とみんなから諭されても「なかなか時間とれなくて……」と応えるあいつ。かなり笑えない。

 
 会場中飛んで回ってやたらに名刺を配り続けて、

「来年、県議会選挙に出ますんでよろしくお願いいたします!」

 同級生なのに敬語を操っている現・秘書の彼。なんだかあまり笑えない。

「○組の△△、死んじゃったってよ」
「うそ!! なんで!?」
「いろいろあったみたい……」

 ホントに笑えない。

「□□先生、認知症でホームに入ってるそうだ」
「あのおっかなかった先生が!?」

 うーん、笑えない。

 変化はハゲくらいにとどめておいてもらえるとありがたい。

「Aが来てないな」
「あいつ、性別変わったってよ」
「え………まじで?」
「店、始めたってさ」
「そういうお店?」
「ブログやってんだ。見る?」

 スマホでAの店のブログをこわごわ覗く。

「可愛いな、A……」
「なんでもっと早く気づかなかったんだろうな、俺たち」

 卒業アルバムのAはイガグリ頭で鹿せんべいを咥えておどけていた。「いやはや、いやはや」が口癖であだ名は「村長」。

 20年で村長がママになっていた。同窓会もなかなかいいもんだ。

週刊朝日  2016年8月12日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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