ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、スマホ世代が引き起こしがちな厄介な現象について言及した。

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 米国のコロンビア大学とフランスの国立情報学自動制御研究所の共同研究チームが興味深い調査結果を発表した。昨年夏にマスメディアがウェブで発信しているニュース記事がツイッターでどのように読まれているのか、調査したのだ。

 調査対象となったのはニューヨーク・タイムズ、BBC、CNN、ハフィントン・ポスト、フォックス・ニュースへのリンクを含むツイート。それらを分析し、どのようにニュースがツイッターを通じて広がっていくのか調べた。この調査で、ニュースが読まれるかは、どれだけツイッターでリツイート(情報をコピーして拡散する機能)されるかにかかっていることが明らかになった。多くのユーザーは各種報道機関がツイッター上で流したツイートで情報を知るわけではなく、影響力の大きいユーザーにリツイート、紹介されることで知る。そこには時間差もあり、数日後に影響力が大きいユーザーが取り上げたことで再びツイッター上で情報が拡散することもあるそうだ。つまり、このソーシャルメディア時代、マスメディアはいかに影響力が大きいユーザーに取り上げられるかを考えなければいけないということだ。肯定的に考えれば、一度報じたが読まれなかったニュースであっても、ウェブでは工夫次第で読んでもらえるということでもある。

 
 その一方で、同調査は気になる結果も示した。ツイートを細かく分析したところ、リンク先の記事に飛んで内容を確認している人の割合は41%にとどまったのだ。残りの59%は記事のタイトルだけで内容を推測し、シェアするだけで満足している──。これが現代の情報活用の典型になっているそうなのだ。冷静に考えれば「多くの人は見出ししか読まない」のは、別にネットだけで起きている現象ではない。昔から多くの新聞読者は見出しを流し見して読む記事を決めていたし、電車で週刊誌の中づり見出しを見て、問題をわかったような気になって天下国家を語る人も少なくない。その意味で流し見は普遍的な現象なのだが、ネットの場合、マスメディアと異なる点が一つだけある。それは「読まなくてもシェアする」人がいるということだ。

 新聞や週刊誌は見出ししか読まない人が、他人に「この記事面白かったよ」と薦めることはほとんどない。だが、ネットは見出しに反応した記事をつい他人に知らせたくなってシェアしてしまう。無料であることも大きな要因だが、それ以上にわずか2回マウスをクリックするか、画面をタップすればシェアできるという利便性もあるのだろう。

 今も昔もメディアは見出しを中心に斜め読みされる。だが、現在はスマホ世代が斜め読みした情報を拡散し、その情報がしばしば影響力を持ってしまう厄介な現象が起きている。なぜ英国のEU離脱問題でデマが横行したのか。なぜデマに基づく外国人差別がネット上からなくならないのか。この調査結果は我々に様々な示唆を与えてくれる。

週刊朝日 2016年8月5日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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