今や、どんな役でもたしかな存在感を放つ俳優として映像の分野でも引っ張りだこの蔵之介さんが、それでも常に“自分を追い込んでいく”場が舞台である。蔵之介さんが主演する舞台「BENT」は、第2次世界大戦下のナチスドイツによる同性愛者への迫害がテーマ。最初に台本を読んだときは、思わず「これは無理だ。俺にはできない」と思って本を閉じてしまったほどだ。

「でも、何度か読みなおしていくうちに、これは究極の愛の物語だと思うようになりました。極限状態に置かれた人間が描かれていますが、過酷な状況に置かれた人間たちが、それでもジョークを言い合い、懸命に生きている。生きていく上では、想像力とユーモアが大切なんだと気づかされる。その厳しさに、美しくも笑え泣けてくるんです」

 社会の“不寛容さ”が加速する中で、「BENT」では、日常なら耳にすることのできない言葉が溢れる。

「舞台に立つときの僕は、常に試されている感じがするんですよ。稽古だって、恥をかきにいくようなもの。映像ならカットのたびにOKがかかりますけど、稽古場では、ダメ出しの連続です。でも、そうやって時間をかけて、一つのことを考える。時間をかけてつくっていく。そこを大事に思っているんですよね」

 代々続く造り酒屋のDNAが、そんなところに受け継がれていた。

週刊朝日 2016年7月8日号