「生活の実権を握っている妻が夫を殺そうと計画したら、そりゃもう、逃げられないですよ(笑)」

「いざとなると思い切りがいいのも女性の特徴では?」とも。

「女性は男性と別れるとき、決意するまではさんざん悩む。けど、一度別れたら、さっさと次の彼氏を探す。夫殺しも同じじゃないかな。決意するまでは迷うが、決めたら躊躇(ちゅうちょ)しない」

 妻たちがそんな憎しみの感情にのみ込まれ、夫に矛先を向けさせない術はないのだろうか。

「自宅という密室に閉じこもっていると、負の感情が殺意に醸成されかねない。ママ友でも趣味のサークルでもいい。外に意識を持っていくことでしょうね」

 と北尾さん。

「そもそも夫婦は他人。長年家族でいると、ついそれを忘れて相手に依存しすぎたり、自分のもののように思ったりしてしまう。それが破たんの始まりです」

 今回取材した、ほぼすべての人から異口同音に聞かれたのは、「家庭内殺人はひとごとではない」ということ。北尾さんは話す。

「裁判を見ていると、人間、やるときはやっちゃうもんなんだな、と思う。一瞬にして理性がぶっ飛ぶ可能性は誰にでもあると思います」

 長年苦楽を共にしてきたつもりでも、妻から“死んでほしいと思われる夫”と“いつまでも大事にされる夫”がいる。その分かれ目はどこか。

「わが家ではたまに、夫婦で過去の棚卸しをします。『あのときはああしたけど、あれでよかったのかな』と。結局は『あれでよかったんだ』っていう結論になるんですが(笑)。それでも『他の答えもあったのかもね』って認め合えれば、お互い納得して、次へ進めるんです」(北尾さん)

 夫婦関係を良好に保つコツも押さえておきたい。

『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新書)の著者、小林美希さんは著書の最後で「全国亭主関白協会」に取材をしている。協会の言う「亭主関白」は、家庭内で権威を振りかざす夫ではない。「家庭内ではカミさんが天皇であるから、『関白』とは奥様を補佐する役目」を標榜する。

 同協会によれば次の三つの原則を実践すれば、悪化した夫婦関係は下げ止まるのだとか。

・ためらわず「ありがとう」を言う
・恐れずに「ごめんなさい」を言う
・照れずに「愛してる」を言う

 同協会はさらに明るく喝破する。

「日本の未来を明るくするのは、上手に妻の尻に敷かれる心とワザを持つ亭主力である」

週刊朝日  2016年7月1日号より抜粋