西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、今季からプロ野球に導入されたコリジョン(衝突)ルールに早急な対応が必要だという。

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 6月14日の広島―西武戦(マツダスタジアム)で、コリジョン(衝突)ルールが初めてサヨナラの場面で適用された。広島が勝ったわけだが、見ていて複雑な心境になった。完全にアウトのタイミングだったからだ。

 九回2死一、二塁。広島の打者赤松が中前打を放ち、二塁走者の菊池が本塁へ突入する。バックホームされた球が三塁方向へややそれた。捕手の上本が捕球し、菊池にタッチ。その場では「アウト」とされた。

 しかし、審判団はリプレー映像を見ながら10分近く検証したうえで「セーフ」の判定を下した。両軍ともにベンチでじっと審判の説明を待った。観客も同様だった。本来ならドラマチックな勝者と敗者のコントラストになるサヨナラの場面だっただけに、違和感が残った。

 だが、「野球がつまらなくなる」という意見は、来年以降、弾力性のある判定の中で生かすしかない。なぜ今年やらないのかという指摘もあるだろう。だが、規則というものは、まず客観的な物差しで判断し、実情を踏まえて改良を重ねるという手順を踏まなければならない。今年はその物差しがブレてはいけない。

「タイミングがアウトだったから」などと、審判員の裁量が大きくなると、ケースごとに判定がブレる。

 まず客観的事実として「捕手(守備側)は走路に入ったら駄目」という判断基準を適用する。走路に入った場合、送球を受けるため「やむを得なかったかどうか」という点について審判員がジャッジするという今の形を維持するのは致し方ないと思う。

 大リーグでは、同ルールを試験導入した2014年に100件近く検証したと聞く。ところが、翌15年は30件に満たなかった。ヤンキースの元監督で、大リーグ機構(MLB)の理事であるジョー・トーリ氏が弾力性のある対応を求めたことで、現実的な判定がされるようになったという。

 
 日本でも来季に向けた準備が必要だ。早くから現場の声を聞き、審判員、球団との協議をするよう願う。新ルールの試験導入の場となる秋のフェニックスリーグ前に十分な話し合いをしておくべきだ。もちろん、審判員には技術向上を図ってもらいたい。

 現場としては、今年のルール運用・基準がある程度見えたわけだから、早急な対応が必要になる。「完全にアウト」と見えるタイミングでも、送球が三塁側に流れて捕手が走路に入れば、セーフになるリスクがある。その対策をもう一度考えたほうがいい。

 いくら前進守備を敷いても、打球が外野に飛べば、送球がそれるリスクはある。広島の赤松のように、外野の頭を越す打球よりも、ゴロを打つ確率の高い打者には、思い切って内野手を5人置くなどのシフトも一考の余地がある。

 コリジョンルールをめぐっては以前にも本欄で採り上げ、野球そのものが大きく変わる可能性を指摘したが、その際の想定よりも劇的な対応を要するかもしれない。シーズン終盤、あるいはクライマックスシリーズ、日本シリーズといった究極の勝負の場面で、同ルールによる泣き笑いが出ないことを祈る。

週刊朝日 2016年7月1日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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