井上:その気持ち、わかりますね。僕もあの当時、「蜷川さん、ケガでもして稽古休んでくれないかな」「この公演中止にならないかな」と思うくらい、毎日がほんとにつらかったんです。それから10年経って、一昨年くらいにまたオファーをいただいて、すごく悩んだんです。コワいし、また傷つけられるかなと思って。ただ、逃げるのも悔しいので、捨て身でやりました。

林:それはなんの作品を?

井上:「冬眠するに添い寝してごらん」という、古川日出男さんが蜷川さんのために書き下ろした新作です。不条理劇もいいところで、かなり不思議な話なんです。KAT―TUNの上田竜也君と兄弟の役をやったんですけど、蜷川さん、具体的な動きなどは何もおっしゃらないんです。「この場面はこのセット。はいどうぞ」って言われて、2人とも死に物狂いでやったら、「同じ井上君とは思えないな」ってすごくほめられて。

林:またその言い方もちょっと……(笑)。

井上:「人ってこんなに変われるのか」とも言われて、その年でいちばんうれしい言葉でした。2回目があって幸せだったと思いますね。

林:いやな思い出で終わらないで何よりでしたね。寺島しのぶさんがインタビューで、「おまえはブスなんだから、演技を身につけろ」と言われたって。蜷川さんって、人の心にグサッとくるようなことをおっしゃるんですよね。

井上:いま思えばですけど、「あいつの演技全然ダメだな」とか、みんな思ってても言わないようなことを本気で言ってくださったんだと思います。演劇の一つの時代が終わったんだなと思いますね。

週刊朝日 2016年6月24日号より抜粋