5月に入り混戦模様となってきたプロ野球西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、4月に比べ成績が低迷している巨人に、苦境は好機に変換できるとエールを送る。

*  *  *

 快調に首位を走ってきた巨人が5月に入って2勝5敗と苦しみ、3位に転落した(11日現在)。開幕前に予想した通り、混戦模様となってきた。毎日、首位が入れ替わる展開は夏場まで続くだろう。昨年もそうだったが、監督、首脳陣の「我慢」が試されている。勝率5割前後で耐えながらも、チーム力の底上げに向け、いろんな選手を使っていくことが求められる。

 巨人は先発投手のやりくりが大変になっている。エースの菅野智之、2年目の高木勇人以外は経験の浅い若手投手が先発した。主力投手に故障が相次いでいる中で、高橋由伸新監督は大変だと思うよ。ファンも不安だろうが、こういうときは発想を転換するといい。「常勝」が義務づけられている巨人で、公式戦でこれほど若手中心の先発ローテーションを組む機会はない、とね。

 3日の広島戦(東京ドーム)に先発した20歳の左腕・田口麗斗は、7回7安打2失点。勝利投手にはならなかったが、素晴らしいものを見せてくれた。速球が140キロを大きく超えるパワーピッチャーではなく、制球力で勝負するタイプだ。田口は初回、先頭打者の田中広輔に初球をアーチされた。その後の投球の変化に注目してみたが、ストライク先行で攻めていった。無四球で七回まで91球という結果が、内容のよさを裏付けている。

 
 経験のない投手であれば、初球の入り方が慎重になってしまいがちだ。しかも相手は現在リーグ随一の得点力を誇る。球数が増えてもおかしくない局面だったが、自らの投球スタイルを変えずに攻めていけたことは称賛に値する。

 近年、投手の変化球が多彩になり、打者はファーストストライクから積極的に振っていく傾向が顕著だ。球威のない投手からすれば、どうやって1ストライクを取るかが大事になる。慎重に投げると、ついボールが先行し、自分の投球ができない。「ソロホームランを打たれても1点」と割り切り、テンポよくストライクを投げきる覚悟が、田口にはあった。「こうやれば勝てる」という引き出しを一つ得たと思う。

 4日の広島戦では、江柄子裕樹が今季初先発。6日の中日戦(東京ドーム)では、長谷川潤がプロ初先発した。マイコラスら外国人投手が順調に投げ、ベテラン勢も本来の力を発揮していたら、江柄子や長谷川に先発の機会は巡ってこなかっただろう。2人とも結果として打たれはしたが、経験の浅い投手が、1軍レベルの選手との距離感を知り、どこかで自信をつけられれば、長いシーズンのどこかでチームの助けになってくれるはずだ。

 投手の経験値だけではない。2軍のイースタン・リーグで戦う同世代の選手が「オレも負けられない」と奮起し、2軍が活性化される。そこに故障や不調に陥っていた選手たちの戦力が戻ってくれば、チームに厚みが出る。

 チームには必ず過渡期がある。補強を繰り返して優勝争いをするにも、経済面も含めた球団の「体力」には限界がある。また、チームの核は生え抜きでなければ、真の常勝軍団は築けない。そうした意味では、今の巨人に見られるような、年俸1千万円や2千万円の投手ばかりのローテーションも興味深い。

週刊朝日  2016年5月27日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら