「当初は敷地面積の割に161人という大規模な保育園の計画だったので、現行計画を強行することに反対しました。保育園の設立そのものに反対だったわけではありません。事業者の説明に問題があって、近隣の心配が大きくなってしまった。良い保育園になればと思う」

“保育園設置に反対ではない”と繰り返すが、「待機児童なんていない」との発言については、「区のデータで、待機児童数が一番少ないエリアという趣旨での発言だった」と釈明した。世田谷区で1歳の子供を持つ住民はこう話す。

「保育園探しをする私たちにとって、開設に向けて前進することが一番うれしい。説明会への賛成派の出席率が低く、少数と見なされることもありますが、日々の自分の生活に手いっぱいで夜に子供を置いて参加することも簡単ではない。意見を述べたくても、参加する余裕さえない人がいるのも実情なんです」

 賛否が分かれる保育園新設問題だが、甲南大学の前田正子教授(社会保障論)はこう分析する。

「世代間や地域の生活環境により、価値観は大きく異なり、反対意見は必ず出ます。だからといって理解なしに開設しても、子供に敵意が向いて、危害が及ぶ可能性もある。住民が子供たちと交流するなど、保育園が地域に溶け込んでいく施策が必要です」

 一方、地方自治に詳しい中央大学の高橋亮平特任准教授は「保育園新設に反対が悪い、賛成がいいという単純な話ではない」と言う。

「保育ニーズが拡大し、少子化なのに待機児童問題は悪化しています。ドイツでは子供の声を騒音から除外し、訴訟などが起こらないようにしました。東京都も条例改正しましたが、保育園を増やすだけでなく、少子化対策を進めるための全体的な環境整備が行政や政治にも求められます」(高橋准教授)

 説明会では、この問題の難しさを象徴する発言があったという。

「保活の苦労が語られると、高齢のご婦人が全く悪気のない感じで、『保育園に入れないのなら、幼稚園に通えばいいんじゃない』と発言。保育園と幼稚園の区別もつかないことに、戸惑いました」(区民の女性)

 待機児童問題は、保育園の単純な増設などという小手先の対処だけでは解決しないということだ。今こそ社会全体で打開策を考えることが必要ではないか。

週刊朝日 2016年4月29日号