昨年末に比べ、日経平均が大きく下がった日本株。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、その原因は世界経済のせいではないという。

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 三菱東京UFJ銀行に勤めている友人が言った。「合併って思った以上に大変なんですよ。名前一つ、簡単には決まらないですよ。下手をすると、うちみたいに長ったらしくなってしまいますからね。万が一、野党大連合が成功した結果が、『民主維新生活の党と山本太郎となかまたち社民改革結集の会共産』党じゃ誰も名前を覚えてくれませんよ」。民主党と維新の党との合併では、名前がすんなりと決まったとのこと、よかったですね。(注:我々「おおさか維新の会」は、「第三極」の立場を貫きます)

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 野党の合併が話題となっている最中、国会論戦は粛々と進み、2016年度予算は3月29日に成立した。私が所属する参議院財政金融委員会でも、所得税法等の税制一般について長時間議論した。

 私は議論の一つとして「マル外(がい)」を提案させていただいた。昔、300万円までの預金の利子所得を非課税とする「マル優」という税制があったが、それに倣ったものだ。一定の金額までの外貨預金の為替差益を非課税にするという案だ。円預金の金利は今、ほぼゼロだ。ひょっとすると、いずれマイナスになるかもしれない。金利をとられる円預金に対し、プラスの金利がもらえる上に為替差益が非課税ならばドル預金は急増するはずだ。円安ドル高が進む。現在、為替差益分は雑所得(注:1カ所から給与の支払いを受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円以内の人は無税)として総合課税で、最高税率は55%(所得税+地方税)だ。一方、円高が進み、損をしたら雑所得内で損益通算ができる。

 
 アベノミクスが当初、成功したのは円安が進んだせいだ。総理は「外国人観光客が3年連続で過去最高を更新し1900万人を超え、旅行収支が黒字化した」「2020年までに農林水産物の輸出を1兆円に増やすという目標を3年前に掲げた時は無理だと言われたが過去最高を3年連続で達成し、昨年7千億円規模を輸出した」との成果を施政方針演説で誇られた。この実績は1ドルが80円から120円と円安が進んだせいだろう。外国人にとって日本への旅行や日本国産の農産物は3割安くなったのだ。円安が進んだのは総理が野党総裁時代に「円安がいい」と何度も明確に口に出してくれたからだ。円安にともない株価は上昇し、資産効果(資産価格の上昇により豊かになった人々が消費を増やす)で経済が回復し、デフレ脱却も視野に入った。ところがその円安が昨夏に止まり、さらには今年になって逆に円高になってしまった。そのせいで日経平均は昨年末の1万9033円から1万6892円(3月24日現在)にまで下がってしまった。

 年初来の株価低迷を世界経済のせいにする人が多かったが、中国以外、日本以上に株価が下落していた国はそうはない。米国などすでに昨年末価格より上昇している。日本株の低迷は円高によるところが大きいと思う。

 各国は前回のG20で「通貨の切り下げ競争をしない」と合意した。どの国も自国通貨安(日本においては円安)を望んでいるのは、それが景気対策に効果がある証拠だ。「合意があるからドル買い介入ができない」というからマル外はいかが?と提案したのだ。期待してますよ、財務省!

週刊朝日 2016年4月15日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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