「検事から『普通のサラリーマンでいかにも小心者といった顔だから、泣きながら人とは思わなかったと言えば裁判官は信じて無罪になる』と言われたんです」

 納得できなかった鈴木さんは自ら聞き込みをして、後続のタクシーを探し当てた。ドライブレコーダーには、登喜夫さんの体に乗り上げた車が被害者を放置して加速するシーンや、車を止めようと追いかける人の姿。加害車両のナンバーを必死で読み上げるタクシー運転手の声もあった。しかし、起訴されなかった。

 遺族から不服申し立てを受け、地検は再捜査したものの、13年3月、再び不起訴に。翌4月に名古屋第1検察審査会が不起訴不当を議決したが、14年1月、検察は「故意は認定できない」と3度目の不起訴処分を下した。遺族は最高検察庁にも出向き、理不尽な捜査を訴えた。

 その結果、重い腰を上げた検察は再々捜査に着手、事故から4年経ってようやく「ひき逃げの故意が認定できる」という判断に至った。初動で必要な捜査をしていれば、遺族がこれほど苦労する必要はなかった。

「人とは思わなかった」ら、そのまま走り去っても罪に問われないのか? まもなく名古屋地裁で始まる公判に注目したい。(フリーランスライター・柳原三佳)

週刊朝日  2016年4月15日号