「もちろん落ちると子供は傷付きます。浪人が決まったところで『次はがんばろう』とか『努力すれば必ず受かるから』みたいなことを、私も娘に言ったんですね。でも、子供の心に響かなくてプレッシャーがたまる感じでした。今思えば、何も言わなくてよかったと思うんです。声をかけずに見守るべきだったな」

 親はわが子を大学に入れるために、一緒にがんばるべきだ、と思いがちだ。だが、そこまでやってしまうと重圧になる。この1年間、おぐらさんはあまり声をかけずに見守ることに徹した。

「すごくつらかったです。『夢はかなうから、がんばったほうがいい』と言えれば、親としては楽です。でも、本人がいちばん理解しているのだから、あえて言葉にはしないよう努めました」

 模試の結果が振るわなかったときも子供に要因を説明させ、説教はしなかった。そして愛娘は有名大に合格した。

 中学2年からおよそ6年間、引きこもりを経験し、大学入学資格検定をパスした後に愛媛大学法文学部に入学したお笑い芸人、髭男爵・山田ルイ53世の山田順三さんは、あっけらかんと言う。

「大学受験って、余暇に近いと僕は思うんです。旅行に出るとか、好きなもん買うのと同じように贅沢なもんじゃないですか。大学受験に失敗したと人生の一大事のように落ち込むのは、正直寒い」

 名だたる私立進学校、六甲中学校に合格し、サッカー部でもレギュラーだった山田さんだが、「下を見るな、常に上を見ろ」と躾ける親の期待を背負い、ヘトヘトになってしまった。漫画もテレビも許されない空間で育ち、“いい子”を演じすぎた結果が、引きこもりだった。知らず知らずのうちに、親の大きな希望に激しく消耗していたのだ。

 山田さんは受験に対して達観した視線を崩さない。

「受験勉強が正義のように振る舞う子も、振る舞わせている親もおかしい。既製品の双六をやりすぎているイメージ。その辺で売っている双六を用意され、はい、サイコロ振って、みたいな。自分でマス目を作るパターンだってあるよ!と僕は思うんです」

週刊朝日 2016年3月18日号より抜粋