侍ジャパンに危機が訪れている。投手陣の辞退が相次いでいるのだ。ないがしろにされる代表の存在に、東尾修氏は疑問を呈する。

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 日本ハムの大谷も、阪神の藤浪もいない。楽天の則本や松井裕も辞退を申し入れたという。これだけ投手陣が出場しないと聞くと、あれ?って思うよね。

 来月に迫った侍ジャパンの強化試合・台湾戦の出場メンバーの話だ。3月5日(ナゴヤドーム)、6日(京セラドーム大阪)での2試合。前売りチケットは順調に売れているという。ファンも期待しているだけに、相次ぐ辞退が寂しいというか、なぜ?という思いが強くなる。

 公式戦の開幕は3月25日。台湾戦はその3週間も前だから、調整の言い訳はつかないよね。さらに言えば、球団に残ってオープン戦で投げても、台湾戦で投げてもさほど負担は変わらない。先発投手なら2~3イニング程度の登板だ。

 3月上旬は、キャンプでの成果をオープン戦で確認していく大事な時期ではある。それにしても、代表の重みを考えると、辞退なんて考えられないよ。

「中途半端な状態で代表戦に臨むのは失礼だ」との意見もある。でも、侍ジャパンの小久保裕紀監督は、各球団のキャンプを視察し、選手の状態を確認済みだ。調整不足で打たれることはあっても、投げられないということはないだろう。故障はともかく、調整面を理由に辞退したのであれば、日本代表を軽視し、小久保監督の思いをないがしろにしたとも思えてしまうよ。

 
 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の開催までちょうど1年。侍ジャパンの試合に出ることで「今年の調整ペースでは3月上旬にここが足りない」といった課題も明確になる。そういう利点だってあるはずだ。

 選手の派遣をめぐっては、12球団ごとに温度差がある。消極的な球団には「大事な選手を真剣勝負でない試合には出せない」との思いもあるだろう。2億~3億、それ以上の高額年俸を払う主力選手の故障リスクを除きたいのはわかる。「大事な選手を送り出すのに球団のトレーナーの帯同を認められないのはおかしい」という声もある。

 だが、発想の順序が違うのではないか。侍ジャパンの存在価値を高めるため、常にトップの選手が集まる──これが大前提ではないか。そうすれば、注目度も集客力も高まり、運営資金も集まる。そのうえで、各球団のトレーナーの滞在費を含めたチームの環境整備に資金を投下すればいい。

 そうしないと、いつまでたっても本当の意味でのトップチームはWBC本番や五輪でしか存在しないことになってしまうよ。

 サッカーでは、欧州で活躍する本田圭佑や香川真司らが、親善試合であっても1日かけて戻ってきて試合に出場し、とんぼ返りでチームに戻る。それが代表のステータス維持につながっている。選考基準が一定だから「代表出場試合数歴代○位」と話題にもなる。ラグビーにも(国際試合の出場数を示す)代表キャップ数がある。でも、野球はその時々で代表選考にブレがあるから、「代表出場試合数」なんて論じるほうがおかしいとなる。

 日本代表チームが“常設”されていないのであれば、何も言わない。だが、毎年3月と11月に代表戦はある。今回の辞退者続出を「仕方ない」で済ませていいのだろうか。毎年3月は「WBCの本番でないなら辞退します」というのが当たり前となってしまうのではないだろうか。

週刊朝日 2016年3月4日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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