まずは低所得者に最低限の生活費を保障するSSIだが、彼は65歳になれば月850ドルを受給できる。SSIは65歳未満の人が申請すると、就労不能証明の審査が課せられるが、65歳以上の場合は収入と資産の条件だけをクリアすればよい。

 ほかにも収入の3割を払えば残りは政府が負担してくれる家賃補助を受けられる。これは連邦住宅都市開発省(HUD)が行っている低所得高齢者向けのシニア住宅プログラムで、条件は62歳以上、貧困ライン相当の収入であること。これを利用すれば収入の3割を払えばよいので、たとえば、家賃千ドルの住宅でも月850ドルの収入しかなければ255ドルを払えば住める。

 ジミーさんは65歳でSSIを受給できたら、家賃補助を受けてシニア住宅に住もうと考えている。そうすればボートで寝泊まりする生活よりも快適に暮らせる。だから、「2年後が待ち遠しい」と話す。シニア住宅は待機者が多いので、64歳になったら、良さそうな物件を見つけて入居申請をするという。

 彼は仕事がないときは友人の家でテレビや映画を見たり、夜はバーでお酒を飲んでビリヤードを楽しんだりしている。ビリヤードの腕前はかなりのもので、バーの常連客とお金を賭けてやり、ほとんど勝っているそうだ。彼のような人が生活保護を受けたら、日本ならバッシングを受けそうだが、個人主義が徹底しているアメリカではあくまで個人の問題として考えるので、受給者に対する偏見はあまりないという。

 従って下流老人も個人の権利として堂々とSSIを申請し、役所も条件さえクリアしていれば承認してくれる。しかし、日本ではそれがなかなかできないので、生活苦にあえぐ下流老人がどんどん追いつめられてしまう。

 生活困窮者への支援活動を行っているNPO法人「ほっとプラス」(さいたま市)では年間約300人の相談を受けているが、うち約半数は60歳以上の高齢者だ。4万~5万円の低年金で暮らす人が貯金も底をついて無銭飲食したり、家賃が払えず窃盗や強盗未遂をして逮捕されるケースも少なくないという。代表理事の藤田孝典さんは話す。

「低年金のおじいちゃん、おばあちゃんが明日家賃の支払日だけど払えないとなると、“どうしたらいいんだろう、この年齢で追い出されたら”と追いつめられてしまう。“こうなったら、刑務所に入るしかない”とコンビニでナイフをちらつかせたりするが、本気で傷つける気はないから、未遂で終わることが多いのです」

 この人たちはそうなる前に生活保護を申請し、その基準額と年金収入との差額を受給できたはずだが、そうしなかった。なぜかといえば生活保護に対する誤解が広がっていて、年金を受けていると受給できないと思っている人が多いからだ。

週刊朝日 2016年1月22日号より抜粋