帯:ええ、いいですよね。死に対する構えにも武士道のようなものを感じるんですが。

相:私は色紙とか頼まれると「一日生涯」と書くことにしているんです。一日をこれきりの生涯と思って、充実して送るという意味です。ソ連抑留の3年間は、日々、そのことを念じつつ、過酷な生活に耐えました。毎日毎日が生涯。同じ日を繰り返すことはない。だから過去のことをうまくいったとか、うまくいかなかったとか考えてもしかたがない。どんな年になっても、何かやりたい、実現したいことを前に持っていて、前を向いている。後ろのことは振り返らざるを得ないけれど、そのために無駄な時間をすごすことはなく、今日の一日を大事にする。

帯:わかりますね。私も一日一日を最後の日だと思って生きなければと、毎日の晩酌を「最後の晩餐」と呼んでいるんです。

 いや、今日はお会いできてよかったです。やはり、90代の方は違います。私は来年、やっと80歳ですが、勉強になりました。

相:80というと傘寿ですか。いいですね。もうとっくの昔に通り過ぎたけれど、バックできたらいいね(笑)。

週刊朝日 2015年12月11日号より抜粋