今年3月、衆院総務委員会でNHKの予算案を説明する籾井会長と高市総務相(左) (c)朝日新聞社
今年3月、衆院総務委員会でNHKの予算案を説明する籾井会長と高市総務相(左) (c)朝日新聞社

 籾井勝人会長率いるNHKにまた、激震が走った。放送倫理・番組向上機構(BPO)は「クローズアップ現代」のやらせ疑惑を断罪しつつ、安倍政権の政治介入を強く非難したのだ。

 報道の取材現場では動揺が広がっているという。あるNHK職員が語る。

「BPOの意見書の発表のすぐ後、大阪放送局の取材デスクが集められ、報道部長らが今回の事態を説明し、完全に“敗北宣言”だったそうです。特にショックだったのは、NHKがこだわった『出家詐欺はあった』という部分が意見書で否定的に書かれたこと。問題のシーンは事実上、ねつ造だったことになる。『ねつ造ではないが過剰演出』という路線で何度も対策会議をしてきたのは何だったのかと。『これでは“ジミーの世界事件”じゃないか』と嘆く部員もいました」

 ジミーの世界事件とは、1980年に米ワシントン・ポスト紙の記者が書きピュリツァー賞を受賞した同名の記事が虚報と発覚した出来事。今回の事件の重さはそれに匹敵するというのだ。

 一方、BPOの意見書では、政府の介入も真っ向から批判した。NHKの調査報告書が発表された当日に高市早苗総務相が文書による「厳重注意」をしたことについて、「放送法が保障する『自律』を侵害する行為そのもの」と指摘したのだ。意見書をまとめた委員の一人で映画監督の是枝裕和氏は7日、自身のホームページで<安易な介入はむしろ公権力自身が放送法に違反していると考えられます>と主張している。

 NHK理事が4月末、クロ現問題の最終報告書を説明するため、総務省を訪れた際、高市総務相が「厳重注意」文書を渡そうとしたが、理事は受け取らずに退庁。その後、追って文書を届けに来た総務省職員をNHKは「趣旨が明確でない」と3時間以上も待たせ、受け取りを拒否するという場面があった。最後は受け取ったが、政府へのせめてもの抵抗ともとれる行動だった。しかし、籾井会長は5月19日の衆院総務委員会で高市総務相に対し「できるだけ早く受け取るべきだった」と、あっさり謝罪してしまう。

 この一件が象徴するように、報道現場が信頼の失墜を気にする一方、NHK経営陣は自民党の政治家の意向ばかりを気にしているという。NHK幹部はこう漏らした。

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