「BPOが高市総務相の行政指導を遺憾だとまで書いたのはびっくり。その対応にここまで追われることになるとは思ってもいなかった。自民党の先生方の議員会館をうちの連中が回ると『あの批判はなんだ』と、かなりクレームが出た。『うちは的確に問題を指摘してやらせはダメだと言っているのに、NHKのとばっちりで非難されたらたまったもんじゃない』というわけです。こちらはひたすら頭を下げるばかりです」

 こうなると、以前からたびたび噂されてきたクロ現の打ち切り話が気になってくる。籾井会長は5日の会見で「私は『なくなる』とは聞いていない」と話したが、実際はどうなのか。別のNHK幹部は次のように説明する。 

「打ち切りという話もあるし、籾井会長ら経営陣の本音はそうでしょう。ただ、今回の問題でやめたとなればイメージに響くという声があり、可能性は減っている。放送枠を遅い時間に移したり、週4回の放送回数を2回に減らしたりすることもあり得る。『報道番組の枠、時間が減れば、政府に文句を言われるリスクが減る』という消極的な理由からです」

 見逃せないのは、政府の介入を批判したBPOの意見書に、安倍政権中枢が激しく反発していることだ。

 菅義偉官房長官は9日の会見で「BPOは放送法を誤解している」「BPOは、放送法が規定する番組を編集する際の順守事項を、単なる倫理規範であると解釈している」などとBPOを批判。安倍首相も10日の衆院予算委の閉会中審査の場で「単なる倫理規定ではなく法規であり、法規に違反しているのだから、担当官庁が法に則って対応するのは当然」と反論した。

 放送法では第4条で「報道は事実をまげないですること」、第5条で「(各局は)放送番組の編集の基準を定め、これに従って放送番組の編集をしなければならない」と定めている。政府はこれらを根拠に対応したというのだが、BPOの意見書では4条や5条はあくまで放送局が自らを律する「倫理規範」であり、政府の介入は許されないと説いているのだ。

 放送法の解釈をめぐりBPOと政府の見解が真っ二つに分かれるとは、どういうことか。上智大学の音好宏教授(メディア論)がこう語る。

「放送法の上位には表現の自由を保障する憲法21条がある。放送法4条や5条の規定はそこから導かれた『倫理規範』であり、政府が放送に介入する根拠にならないというのが学会で多くの憲法学者が採用している主流の説です。安倍首相はともかく、総務相を経験している菅官房長官はそのことを知っているはず。学問が積み上げてきたことを都合の良い解釈で否定するのは、集団的自衛権の行使を認めたときの政府の態度と重なります」

 放送法までもが時の政権に都合のいい“解釈変更”がなされるのだろうか。NHKなど放送メディアは団結して政治介入を阻止してほしいものだ。

(本誌・小泉耕平/今西憲之)

週刊朝日 2015年11月27日号より抜粋