6日の登板で最多勝となったロッテの涌井秀章投手。しかし、その采配にチームのことを考えていないのでは、と東尾修・西武元監督は疑問を投げかける。

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 それにしてもわからないな。6日の楽天―ロッテ戦で、ロッテ・涌井秀章が15勝目を挙げ、最多勝を獲得した。だが、10回まで投げ抜き、球数は137球にのぼった。理解に苦しむよ。

 すでにクライマックスシリーズ(CS)進出を決めていたロッテにとっては消化試合。ファーストステージが10日に始まることを考えたら、投げるにしても「5回80球」とか、条件をつけるべきだよ。

 報道によれば、伊東監督は10日の第1戦での先発を伝えたが、涌井本人が「リーグ最終戦でタイトルを取りたい」と言い、了承したという。涌井は西武時代に最多勝を2度取っている。なぜ?と首をひねりたくなる。

 日本ハムとの第1戦では大谷翔平が相手だろう。3試合制だから初戦の重要性は大きいが、最初からマッチアップを考え、涌井を第2戦以降に投入すると決めていたなら、わかる。だが、伊東監督は10日に投げてほしかったのだから、それは当てはまらない。

 涌井はエースだ。西武時代から信頼関係のある伊東監督と涌井なのだから、話し合わずとも、すんなりCSへの調整を優先するものだと思っていた。

 チームの目標は何か。涌井の最多勝か、日本一を目指すのか。野手では角中、クルーズが故障し、守護神の西野もけがで今季絶望。満身創痍の状態で勝ち抜くには、涌井のフル回転が前提になるのではないかな。

 
 他の選手がどんな思いで見ているかも心配だ。涌井に最多勝を取らせることでチームが一丸となるなら、百歩譲って、それでもいいだろう。だが、全員がそんな意識になれるとは思えない。涌井がCSで精彩を欠いたら、「なぜあそこで投げさせたのか」という議論にもなりかねない。

 リーグ3位は涌井だけではなく、チームで勝ち得たものだ。投手出身の私の立場からすれば、絶対にありえない登板だった。

 巨人を見てほしい。エース菅野は、今月4日のヤクルト戦に中6日で投げてもよかった。しかも、5回3分の2を自責点0に抑えれば、防御率トップの可能性もあった。それでも登板はなかった。原監督は「個人より巨人」、菅野も「タイトルは個人のもの。次のCSに万全でいくことのほうが大事だ」と言った。

 結局、その試合では、今季精彩を欠いていた内海を先発で試し、救援陣も小刻みにつないで調整の場にあてた。対照的だよな。

 私の現役時代、西武は黄金期だった。誰もがタイトルへのこだわりよりもリーグ優勝、日本一を目指していたよ。シーズンの最後まで優勝がもつれた場合でも、少しでも消化試合があれば、首脳陣は日本シリーズへ向け、試したい選手を起用し、投手の調整の場にあてた。

 ロッテは141試合目にしてやっとCS進出を決め、わずか2試合となった消化試合の一つを涌井にプレゼントしてしまった。ファーストステージでどちらが勝ったとしても、「涌井の137球」には、伊東監督なりの深い理由があったと考えないと、采配への疑問は消えないし、まして美談にもならない。

週刊朝日 2015年10月23日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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