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 十数年前、台東区にフィルム・コミッションが発足したとき、台東区に在住していたいとうせいこうさんは、有識者として年に3~4回開催される会合に参加していた。劇作家の井上ひさしさんも一緒だった。あるとき、「映画の撮影を誘致する相談をするより、台東区で映画祭をやったほうがいいんじゃないか」と思い立つ。それを井上ひさしさんに相談すると、「だったら、喜劇に絞ったほうが面白いよ」とアドバイスされた。

「プロデュースする以上は、僕が理想とするような映画祭を作りたかった。映画関係者のための映画祭ではなく、映画を観に足を運んでくれる人たちのための映画祭にしたかったし、下町らしい人情味も感じてもらいたいと思った。あとは、世界中で開催されているどの映画祭よりも、下町感は強いと思うので(笑)、映画だけでなく食べ歩きや買い物、神社仏閣や美術館巡りとか、町自体も楽しんでもらえたら最高だな、と」

 いとうさんがプロデュースする“したまちコメディ映画祭”が最初に開催されたのが2008年。8回目を迎えた今年は、「まさに、史上最強のラインアップ」と胸を張る。

「これが、“感動映画祭”だったら、僕はプロデューサーを引き受けなかったと思うんです。笑わせることって、終わりなき世界だから。ずっと同じネタで笑わせられるわけでもなく、時代時代の間があり、育った環境ごとに笑いのセンスが違ったりする。その一方で、どうしようもなく普遍的な笑いもある。笑いって、いろんな時代ごとに、世界中の人たちが競っているものですよね。僕には、ピン芸人としての顔もあるので、笑いの見方に関しては比較的厳しいほうじゃないかと思います。“この笑わせ方はずるい”というのもわかっている。その上で、この映画祭には、世界中の“ずるくない喜劇”を集めていると断言できます」

 もうチケットは完売してしまっているが、今回は、“ビートたけしリスペクト上映”という企画で、浅草フランス座演芸場に、たけしさんが来場することも話題だ。

「フランス座で修業したたけしさんがフランス座に帰ってくるというのは、日本コメディ史においても、記念すべき日になるんじゃないかと思いますね」

 映画の話、喜劇の話。好きなものの話をしているときのいとうさんのキラキラした瞳は、まさに少年のようだ。好きなことを仕事にする。その秘訣はどこにあるのだろう。

「僕は今まで、自分の好奇心だけを頼りに生きてきた気がします。わかりやすく言うと人生って、好循環と悪循環の二つしかないと僕は思っていて、停滞したなと感じたときは、思い切って大胆なことに挑戦してみる。で、そこで起こったことを、とことんプラスに取る。だからいつも、自分で好循環が起きてる気持ちになれる。要は暢気なんです(笑)」

週刊朝日  2015年9月18日号