「役者のバックグラウンドの情報が少なければ少ないほど、お客さんは、フラットに役に入っていけるんじゃないかと思うんですが……。周りには、考えすぎだって言われますけど、そもそも、リアルって何なんでしょう。それすら、考え始めたらいつも袋小路にはまってしまいます(苦笑)」

 84年にパルコ劇場で、清水邦夫さん脚本、蜷川幸雄さん演出の舞台「タンゴ・冬の終わりに」を観た。そのとき、主役の清村を「いつか演じてみたい」と思った記憶がある。約30年のときを経て、その夢が実現する。

「でも、いざ演じるとなったら苦しいです。引退した役者の役だし、気持ちにダイレクトに突き刺さる台詞ばかりで……。いっそ、“これを最後の舞台にします”って宣言してしまいたい。それくらい苦しい(苦笑)」

 その狂おしいまでの作品への取り組み方は、15歳のときから、変わっていないのではないだろうか。

「それって、おかしいのかな。僕は当たり前のことだと思っているんだけど……(苦笑)。でも、経験を積んで変化した部分もありますよ。スキルが上がっても、記憶力が落ちる、とかね(笑)。だから、年を取ればいいとか、若ければいいというものでもない。大事なのは、受け入れるということ。失ったことを嘆いても、得たことを手放しで喜んでもしょうがないんです。今になって、人間って、よくできているなと思います」

週刊朝日  2015年8月21日号