池波さんもこの席で食べただろうか。1300円(撮影・岸本絢)
池波さんもこの席で食べただろうか。1300円(撮影・岸本絢)

 池波正太郎は、エッセー『食卓の情景』のなかで、チキンライスについて書いている。最初は大きらいだったが、戦時中の食糧難のなか食べた味に感激し、大好物になった。

<ことに、旅へ出ると、毎日でもよい>

 池波正太郎が愛した店の代表が、銀座の煉瓦亭だ。創業明治28年、チキンライスの歴史も100年物である。

「明治37、38年ごろでしょうか。日露戦争のあたりに登場したようです」

 煉瓦亭の3代目、木田明利さん(80)が教えてくれた。

「当時の海外航路の船の料理人が、向こうで食べた味を、日本人に合うようにアレンジしたのが日本の洋食です。チキンライスは、中華のチャーハンもヒントになっているようですね」

 煉瓦亭のチキンライスは、当初、塩コショウベースの味付けで、赤くなかったという。ちなみにカゴメがトマトケチャップを販売開始したのは明治41年。

 煉瓦亭のチキンライスも、やがて、トマト風味に変わっていくわけだが、煉瓦亭ではケチャップではなくトマトピューレを使用している。そのため、さっぱりした味わいだ。

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