映画監督森達也さん(59) (c)朝日新聞社 @@写禁
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映画監督
森達也
さん(59) (c)朝日新聞社 @@写禁

 強行採決された「安保法制」。各界から「今からでも撤回を!」と声が上がっている。映画監督の森達也さん(59)は、野党やメディアが使う、あるフレーズについて違和感を覚えるという。

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 多数決という観点から言えば、今回の結果は自民党が参院選、衆院選でそれぞれ大勝した時からわかっていた。選挙前から憲法草案をホームページにアップしていたし、彼らにはアリバイがあるわけです。ただし大義はそれだけです。

 安倍首相は、国会採決の前に、米議会での演説で夏までの成就を約束しました。これだけでも退陣に追い込まれてしかるべき事態でしたが、批判は少しだけ。言葉の形骸化が最も怖い。「日米同盟」という言葉もいつの間にか定着しています。軍事的な結びつきを示す「同盟」なんて、日米間には存在しません。あるのは、日米安全保障条約。あくまで「協定」です。

「理解が深まっていない」「議論が尽くされていない」──。野党やメディアがこれらのフレーズを使うことに私は強い違和感を覚えます。

 いま僕たちは、安保法制に理解を深めたいのではなく、ノーと言いたいのです。

 安倍政権の企みについては充分に理解しています。いくら議論を重ねたところで、答えは変わらないことをもっと強く主張すべきです。立憲主義に反し、明らかに違憲なのですから。

 安保法制の賛成派は「抑止力を持てば戦争にならない」としています。ならばなぜ世界から戦争はなくならないのか。抑止力は常に、戦争を誘発します。自衛を理由に人は人を殺す。これは、人類の本能だと思います。憲法9条は、そんな人類の歴史へのアンチテーゼであり、好きな言葉ではないけれど、唯一の誇りでした。ここで70年の歴史が終わってしまうなら、僕は、本当に悔しいです。

週刊朝日 2015年7月31日号